D102
ドイツ厚生省
保健医療制度改革についてのインフォメーション
保健医療制度と社会的保護は引続き最優先される
1997年6月
編集者:連邦厚生省広報部 53108 ボン
Informationen zur Gesundheitsreform
Gesundheitswesen und sozialer Schutz
bleiben erstklassig
Juni 1997
Bundesministerium fur Gesundheit
Referat Presse/Offentlihkeitsarbeit
改革の概要
私たちの保健医療制度は、給付に優れ、支払可能な状態を続ける。
【1】
公的医療保険は以下のような岐路に立っている:
国家規制を一層強め経済的給付能力を制限するのか;それとも保健医療に携わるものに一層の自由を与えるのか
質の低下、給付の削減、サービスの不足、医療の二層性をもたらすのか;それとも相互の連帯と自己責任との間に新しい境界設定をするのか
【3】私たちの保健医療制度は、世界においてもっとも給付能力に優れた状態を維持しなければならない。医療制度改革は、質と医学的サービスを保証し、病気になったときの社会的保護を改善する。
改革は、一方的な費用負担を掛けることなく、医学の進歩を総ての公的医療保険の被保険者に役立たせることを保証する。保健医療に影響を与える社会の変化、年齢構成の変化及び医療技術の進歩は、公的医療保険への大きな挑戦である。
保健医療制度改革は,疾病金庫にこのような今後の挑戦に打ち勝つことを可能にさせるものである。
過去のすべての改革は、公的医療保険の支出が収入を上回らないようにすることを目的としていた。そのために保険料率は引き上げられ、給料に負担がかかる。給料への高い負担は、職場が失われたり、外国へ移動する原因にもなる。他方において、保健医療分野はドイツの大雇用の一つにもなっている。
私たちの保健医療は約三百万人の職場を提供している。したがって、人とその健康に役立つ成長が、このようなサービス分野において維持されなければならない。保健医療制度改革は、保健医療制度の中において、給料への負担制限と職場の確保にとって合理的なバランスを創り出すものである。【4】
今後もあらゆる手段を用いて、公的医療保険の中の非経済性や浪費と戦わなければならない。今日では立法府の総括的手段では、もはや到達できない。公的医療保険のパートナーたちだけで実施できる特殊な手段が問題となってきたのである。たとえば、それに関連する規則を作ることによって二重、三重の検査、不必要な入院及び高すぎる価格を阻止することができる。
【5】公的疾病金庫(複数)は、保険料率の引上げと自己負担の増額を連結させることによって、経済性を保たせることになる。このようにしなければ、疾病金庫は今までの経済的な支払準備金を失って、そのようになった金庫からの被保険者の脱会に脅かされることになる。新しい特別な解約権利によって、被保険者は短期間に疾病金庫を変更することができるからである。原則として、他の公的疾病金庫は、その金庫の会員【被保険者】になりたいという者を断ることができない。
疾病金庫は経済的支払準備金を使い果たし、医学的に必要な処置に対して追加の財源が必要となったときにも、それを提供しなければならない。そうしないと、サービスの質は悪化してしまう。【6】
サービスと社会保護の質を永続的に保証するためには、総ての経済的潜在能力を引き出すだけでは不足するようになった。したがって、従来の自己負担を5マルク、あるいはパーセントで5ポイント引上げることになる。これは支持できることである。そして、改善された低所得者規定により、低所得の者に対して、経済的に要求できないような負担を強いるものにはならない。
【7】生命への期待が増すことの結果、医学研究の進歩、及び公的医療保険の一層の給付は、追加の経済的手段がなければ実現不能である。これは私たちの健康にとって価値のあることである
。
誰もが総所得【課税前所得】の2パーセント以上を自己負担しなくてすむ。慢性患者に対しては、年間の自己負担は、総所得の1パーセントに軽減される。入院とそれと結びついたリハビリに対して、年間に合計14日分だけを自己負担すればよいことになる。自己負担の清算は歴年で行われる。疾病金庫は、余分に支払われていれば、領収書の呈示によって返済する。継続的に自己負担を支払っているときには、疾病金庫は月ごと、または四半期ごとに返済する。
【8】子供と若い者は【18才以下】、交通費以外は自己負担から免除される。また、社会扶助により生活する者、失業救済または職業教育訓練を受けている者、または社会扶助または戦争犠牲者援護によってホームで世話を受けている者も免除される。収入の少ない人も同様に原則として自己負担をしない。これは1997年の場合、たとえば2,348.50マルクまで(旧西ドイツ地域)、2,002マルクまで(旧東ドイツ地域)の収入の年金生活夫婦、または2,775.50マルクまで(旧西ドイツ地域)、2,366マルクまで(旧東ドイツ地域)の子供1人の夫婦が該当する。
今日すでに八百万人の大人と千二百万人の子供が自己負担から免除されている。その人たちの所属する疾病金庫は詳細をお知らせし、免除の証明書を交付する。【9】
現在所得とは無関係に提供されている高価な医療給付が割り当て制になるだろう。これは二層性医療ということで、裕福な人が心臓手術を賄賂のような形で手に入れ、公的医療保険患者が順番待ちリストに載せられるか、または特定の年齢をこえると、たとえば股関節人工装具または腎臓移植が入手できなくなるだろう。悲観的な見方をすればこうなるであろうというのではなく、私たちと比較できるような西側の工業国(複数)において、すでに現実のものとなっているのである。
もしSPD(社会民主党)の提案に従っていたら、このような結果が起こったかもしれない。SPDは公的医療保険の支出を予算で規定しようとしているからである。予算化というのは、支出の増加を給料の上昇に合わせるという制限である。給料の増加が1パーセントに達しないと、
予算はその年には、たとえば病院に対して大量解雇と顕著な給付制限をもたらすことになるであろう。 タイトルに戻る以下は訳者による注
【1】ドイツにおける「保健医療Gesundheitswesen」の定義は、国民の健康に寄与し、促進し、そして回復させる総ての物的及び人的要素を包括したものをいう。
本文に戻る【2】二層性医療というのは、裕福な人とそうでない人で受ける医療の内容が違うことで、ドイツの保険制度にはこれがないと以前から自負している。
本文に戻る【3】「相互の連帯」は保険制度の下でお互に(老人と若者、女性と男性、就業者と家族、健康者と病者、富める者と貧しい者)助け合うことであり、「自己責任」は病気になった者が費用の一部を自己負担することを意味する。両者の割合をどのように変更するかを問題としている。
本文に戻る【4】保険料率を引上げることは、保険料を支払う雇用者と被雇用者の両者にとっての負担増となる。ちなみに、ドイツの1時間当りの労働コストは世界でもっとも高く、日本は十数位という。
本文に戻る【5】パートナーというのは、州から医師の監督権を委任された州医師会、州保険医協会、州疾病金庫連合、病院協会、業界を代表する会などを指す。いずれも連邦法で規定された任務を遂行する公的な組織である。たとえば、医師から提出された診療費請求の審査は、州保険医協会と州疾病金庫連合が共同で規則を作って共同で実施し、診療費の配分に当たって平均値を規定以上に超えた請求に対する削減などの調整は、州保険医協会が規則を作って実施している。今後規則を作って、このようなパートナー関係を拡大していくという趣旨である。
本文に戻る【6】たとえば、地区疾病金庫(日本の国民健康保険に相当)から職員補充金庫(日本の厚生年金や共済組合)に移ることなどが可能になった。保険料率は疾病金庫によって異なるので、移動による被保険者の負担軽減、それによる疾病金庫間の競争と格差の縮小、冗費節約などが見込まれている。
本文に戻る【7】今度の改訂で、今後は保険料率を総所得に対して0.1パーセント引上げるごとに、医薬品代、入院費、交通費などにかかる自己負担を1マルク、リハビリなど定率制の自己負担はパーセントで1ポイント引上げるという原則を作った。今回は保険料率を 0.5 パーセント引上げるので上記のように5マルク、5ポイントの引上げとなった。この結果、医薬品の自己負担は最低でも9マルクに達し、安い医薬品では実費が自己負担額より安くなる場合も生ずるので、医師は患者が求めれば保険でなく自由処方箋を出すこともできるらしい。今回の改訂によって、医師には患者に、給付の大枠と額を知らせる義務が新たに加えられた。
本文に戻る【8】従来は約7万マルク(約500万円)以上の所得の人は、4パーセントまでの負担であった。また慢性患者への配慮はなかった。今回からは、前年度に限度額、すなわち2または4パーセントまで全額の自己負担をしていると、翌年は慢性患者として扱われ、自己負担は1パーセントに軽減されることになった。日本と違って、医師の診療そのものに対しては自己負担はない。また、入院の自己負担は14日までで、それを超えた日数は負担の対象とならない。
本文に戻る【9】単身者の場合、自己負担が全額免除される収入は
1,708マルク(西)、1,456マルク(東)
夫婦以外の控除額は1名につき
427マルク(西)、 364マルク(東)
が加算される。上記の金額は毎年インフレ率に応じて修正される。
訳者解説
このパンフレットは、1997年7月1日から実施される医療制度改革に当って、ドイツ厚生省が恒例のように出版した国民向け解説書のうちの一つである。
【 】で示した注釈は、理解の便宜のために訳者が付したものである。
訳文と注釈は今後修正する可能性がある。
1997.7.10.翻訳; 1997.12.25.訳文修正
訳者 岡嶋道夫
タイトルに戻る