D109
スイス医師連合(FMH)
生涯研修規則
スイス医師会雑誌75(14):541−545、1993
Fortbildungsordnung (FBO)
der Verbindung der Schweizer Aerzte FMH
Schweizerische Aerztezeitung. Band 74, Heft 14: 541-545, 1993.
略語対照
AK |
スイス医師会 |
Schweizerische Aerztekammer |
FBO |
生涯研修規則 |
Fortbildungsordnung |
FG |
専門医協会 |
Fachgesellschaft/en |
FMH |
スイス医師連合 |
Foederatio Medicorum Helveticorum (Verbindung der Schweizer Aerzte) |
GS |
FMHの中央事務局 |
Generalsekretariat der FMH |
KG |
州(カントン)の医師協会 |
Kantonale Aerztegesellschaften |
KWFB |
卒後−生涯研修委員会 |
Kommission fuer Weiter- und Fortbildung |
TK |
称号委員会 |
Titelkommission |
WBK |
卒後研修会議 |
Weiterbildungskonferenz |
WBO |
卒後研修規則 |
Weiterbildungsordnung |
ZV |
中央理事会 |
Zentralvorstand |
未 議 決 原 稿
【訳者注:これは未議決原稿となっているが、その後議決され効力を生じた】
医師会の代議員は1992年12月に FMH-生涯研修規則の第一読会を終え、拘束力があり、組織され、また証明可能な生涯研修の原則を(卒後研修規則における各 FMH-専門医称号取得のための試験の導入と連結して)議決した。その結果作られた KWFB と州代議員の作業グループは合意の提案を作成したが、それは Aerztezeitung 10号/1993年(1993年3月10日)に発表されている。合意提案とそれに伴った見解を考慮して、中央理事会(ZV)は1993年3月25日の会議で以下に印刷した公式草案を議決した。草案は5月13日のプレジデント会議で討議される。中央理事会はこれに引き続いて提出された意見を検討し、医師会宛の草案を可決することになる。
この草案は大綱規則【大綱だけを定め、細目は他の立法にゆだねる規則】、つまり「容器」である。この容器を内容で満たすこと、すなわち医師の処置の質の保全と促進のために、該当する専門領域においてどのような生涯研修が適当であるか、それによりどのような基準で生涯研修を提供することが認められるかを定めるのは、個々の専門医協会と(任意選択的に)州医師協会の任務である。
生涯研修の最重要の大綱条件は何であるか?
卒後研修中でない FMH 会員は、医師として従事する間は、年最低80時間の生涯研修を修了する。そのうち30時間は予め自己学習に割当てられ、点検されない。総ての生涯研修義務者は残りの50時間のために生涯研修プログラムを選択し、それに規定された生涯研修を習得しなければならない。各専門領域には − FMH専門医称号 に相当して − 一つの生涯研修プログラムがある。FMH-称号を標榜しない者は、どのプログラムを習得するかはまったく自由である。1個または複数の称号を有する者は、一つの標榜している称号のプログラムを選ぶ。一つの称号しか標榜していない者は、該当するプログラムを習得しなければならない。いかなる場合にも KWFB は理由のある申請により例外を保証することができる。
専門医協会は、プログラムの中で定められた基準によって望ましい生涯研修企画を認可し、それに特定の時間数を割当てる。生涯研修企画としてコングレス、セミナー、講演、実務者会合などだけでなく、各種の質を保証するプロジェクト(例えば medical audit, モニタリング、peer review)も認可される。生涯研修義務者は、これらの提供を自由に組み合わせることができる − 専門医協会は一つの特定した構成の生涯研修を規定してはならないが、そのようなものを推奨することは差支えない。
このような専門医協会の生涯研修とは別に、州医師協会、卒後及び生涯研修委員会(KWFB)及び中央理事会も生涯研修企画を認可することができる。このような生涯研修と、専門の異なる専門医協会の生涯研修の修得は、年に15時間まで算入される。したがって、最低35時間は、自分に該当する専門医協会の生涯研修プログラムを選択して研修しなければならない。
習得した生涯研修は生涯研修プロトコルに記録される。企画者は参加証明を渡さなければならない。3年のテスト期間ののち、卒後研修義務者はプロトコルを生涯研修実行を点検する管轄の専門医協会に送付する。
生涯研修規則は公式草案により1995年1月1日より3年間は制裁なしに導入されるものとする − 言わば制度をテストするためである(医師会が卒後研修規則で専門医試験を同様に試験的に決定したのと類似している)。生涯研修が満たされない場合の制裁は、3年周期の2回目が経過した後に(2001年1月1日より)言い渡される。
中央理事会宛で1993年5月6日までに中央事務局に到着した意見は、生涯研修規則(FBO)の議決の前に考慮されうる。
質問があったときの回答のために、卒後−及び生涯研修部局並びに FMH の中央事務局内法律サービスが利用できる。
T.一 般 規 定
Art. 1 生涯教育の目的
生涯教育は医師の給付の質を改善することを目的とするが、とくに
Art. 2 生涯教育の義務
卒後研修中でない FMH の全会員は、医師業務従事中は以下の規定により年に最低80時間の生涯研修をすることが義務づけられる。
U.管 轄
Art. 3 中央理事会(ZV)
ZV は生涯研修規則の執行に責任を持つ。
ZV は、他の決定機関に留保されていない総ての処置と決定を管轄するが、とくに:
Art. 4 卒後−及び生涯研修のための委員会(KWFB)
KWFB が管轄するのは:
Art. 5 専門医協会(FG)
FG が管轄するのは:
Art. 6 州医師協会(KG)
KG が任意選択的に管轄するのは:
V.生 涯 研 修 の カ テ ゴ リ ー
Art. 7 自主学習
自主学習の生涯研修(例えば、文献、視聴覚による方法)は一括して年30時間として算入される。
Art. 8 専門科の生涯研修(カテゴリー1)
総ての専門科に − FMH専門医称号に相当して − 生涯研修プログラムが存在する。総ての生涯研修義務者は一つの専門科を選択し、該当するプログラムで規定された生涯研修を修得する。一つまたは複数の FMH-称号を有する生涯研修義務者は、選択は標榜している称号に制限される。主称号のみを標榜している者は、それに属する生涯研修プログラムを修得しなければならない。KWFB は根拠のある申請により例外を許可することができる。
専門科の変更は1年の歴年後に可能である。
カテゴリー1では、3年周期として、年平均最低35時間の生涯研修を証明し得なければならない。
Art. 9 他の生涯研修(カテゴリー2)
生涯研修カテゴリー2として、KG、KWFB 及び ZV が認可した生涯研修企画、並びに専門科の異なる FG の生涯研修企画が適用される。
カテゴリー2により修得された生涯研修は、3年周期として、年平均最高15時間まで算入される。
W.専 門 科 の 生 涯 研 修 ; 生 涯 研 修 企 画
(カ テ ゴ リ ー 1) の 認 可
Art. 10 専門科生涯研修プログラムの内容
専門科生涯研修プログラムの規定は:
生涯研修プログラムはさらに、例えば個々の医学的専門分科でなされている生涯研修の割合に関して提案することができる。
Art. 11 専門科の生涯教育プログラムの公布と改訂
総ての新規及び改訂の専門科生涯研修プログラムは、該当する FG によって作成された後KWFB によって鑑定され、ZV によって承認される。
Art. 12 生涯研修企画の認可と評価
FG は生涯研修企画並びにその専門領域の企画の各部分を認可し、それを一定の時間数(1時間及び半時間)に整える。
生涯研修企画として FG はセミナー、コングレス、実務者会合などだけでなく、各種の質保全のプロジェクト(medical audit、モニタリング、peer review、など)も認可できる。
生涯研修に当てられる時間、重要性並びに教育的及び臨床的効果によって、調整時間は計算される。通常は夜の企画は3時間、半日の企画は5時間、1日の企画は8時間に調整される。
他の FG、KG 、そして KWFB または ZV によってすでに認可されている生涯研修は、各個に、または一括して採用することができる。
FG は、翌年のために認可された生涯研修企画のリストを、生涯研修義務者に毎年提供する。遅れて組まれた企画は時間数を示して遅滞なく補充される。
Art. 13 異議申立
生涯研修企画者は、企画の不認可に関する
FG の決定に対して、30日以内に KWFB に異議申立をすることができる。KWFB は最終的決定をする。
X.他 の 生 涯 研 修 ; 生 涯 研 修 企 画
(カ テ ゴ リ ー 2) の 認 可
Art. 14 生涯研修規則と KG による生涯研修企画の認可
KG はその生涯研修領域のために、FG の生涯研修プログラムに相当する生涯研修規定を公布することができる。生涯研修規定が規定するものは:
KG は生涯研修企画あるいは企画の一部を認可することができる、そしてそれらを一定の時間数(1時間及び半時間)に整える。Art.12 の 2項から 5項までが準用される。
Art. 15 KWFB 及び ZV による生涯研修企画の認可
KWFB 及び ZV は生涯研修企画並びに企画の部分を認可することができる、そしてそれらを一定の時間数(1時間及び半時間)に整える。Art. 12 の 2項から 5項までが準用される。
Y.修得 し た 生 涯 研 修 の 証 明 と 検 閲
Art. 16 生涯研修義務の例外
KWFB は根拠のある申請により生涯研修義務の例外を受入れる。例えば根拠として対象となるのは:職業従事の中断、外国滞在、長期にわたる病気。
KWFB の決定に対して、当該 FMH-会員は30日以内に ZV に異議申立ができる。
Art. 17 生涯研修記録に基づく生涯研修習得の定期的証明
総ての生涯研修義務者は、修得した生涯研修が記録された生涯研修記録を作成する。生涯研修企画の企画者は参加証明を渡す。生涯研修カテゴリー2は生涯研修記録の中で証明されなければならない。
生涯研修記録は各3年ごとに管轄の FG に送付されなければならない。3年の期間は、称号交付後の1月1日または最終の FMH-証明の交付後の1月1日に始まる。医学の学部教育終了後10年目の終りに FMH-称号を標榜していない者は、遅くともそれに引き続く1月1日までに、FMH-証明書と関連づけられる卒後研修を行なっていない年に、生涯研修を習得していたという最初の証明書を提出しなければならない。
Art. 18 生涯研修義務履行に関する決定
FG は、提出された生涯研修記録がその生涯研修プログラムと一致するかを点検する。根拠のある場合には、FG は認可されてない生涯研修を例外的に算入することができる(例えば、外国での生涯研修)。カテゴリー2による証明された生涯研修は15時間まで算入される。
FG は FMH の GS に、生涯研修プログラムの評価を有料で委任することができる。FG が提出された生涯研修記録を有効期限内に点検しないときには、ZV は代って点検を行なうように指示することができる。
FG は生涯研修義務者に生涯研修義務の履行についての決定を通知する。FG は、生涯研修が履行された場合に証明書を渡すことができる。
FG は KWFB に各3年の周期で、評価されたFMH-会員の名簿を渡す。
Art. 19 生涯研修の補充の猶予期間と職業倫理規則による制裁
FMH-会員が生涯研修義務を期限内に満たさないときは、FG は同人に対して欠落している生涯研修を補充するために1年の猶予期間を当てる。
FMH-会員が欠落した生涯研修を指定された猶予期間内に確保できないときは、職業倫理規則によって説明が求められる。
Art. 20 第2猶予期間の設定とFMH専門医称号の喪失
FMH-会員が最初の猶予期間内に生涯研修義務を果たさなかったときは、欠落した生涯教育を取り戻すために FG は次の猶予期間1年を設定する。
FMH-会員が第2猶予期間を経過しても欠落した生涯研修を確保できないときは、自動的にFMH専門医称号標榜の権利が失われる。FMH-会員が再取得の時点までに欠落した分の生涯研修を証明できるようになれば、FMH専門医称号の再取得は可能である。
Art. 21 異議申立
FG の決定に対して、該当する FMH-会員は30日以内に ZV に異議申立をすることができる。ZV が最終的決定をする。
Art. 22 生涯研修記録の欠如
生涯研修記録を FG に送付しない生涯研修義務者は、KWFB から督促される。最初の督促でも届け出ない生涯研修義務者は、Art. 19及び 20 により KWFB が制裁を科する。Art.21 は準用される。
Z.一 般 訴 訟 手 続 規 定
Art. 23 取消し請求
生涯研修規則(FB0)で規定されていることであれば、決定及び判定に異議申立をすることができる。
1 項による異議申立の処置は当事者に書面で伝えられる。それは理由と上訴に関する説示を含む。不充分な開示によって当事者に不利をもたらしてはならない。
Art. 24 縁故者排除
Art. 21 による異議申立可能な処分の免除の手続並びに抗告手続のため、行政手続に関する連邦法 Art. 10 1項 の縁故者排除(Ausstand)と拒絶の事由が適用される。
縁故者排除が争われるときは、管轄の組織が当該委員の委員会を排除して決定する。
Art. 25 法定審問
当事者は法定審問を要求する権利を有する。
Art. 26 異議申立の資格
生涯研修規則(FB0)または 生涯研修規則に基づく規定が権限を与えている者及び組織は、異議申立の権限がある。
Art. 27 異議申立書
異議申立は書面で提出できる。異議申立書は、その証明方法を述べた理由及び異議申立人またはその代理人の署名を含めた要望である。
異議申立書は異議申立担当部局に2通提出する。
Art. 28 書類交換
異議申立が明らかに信頼性や根拠に欠けたものでないときは、異議申立担当部局は前審と他の手続に関与する者に写しを送り、通知の期限を知らせる。前審は異議申立担当部局に同期限内に記録書類を提出しなければならない。
必要な場合は、再度書類交換を行なうことができる。
Art. 29 期限
期限は、当事者または該当の組織への通知をもって進行を開始する。算定に当っては、期限が進行を開始した日は算入されない。
管轄の組織によって設定された期限は、期限の完了する前に願い出があった場合には延長することができる。生涯研修規則または生涯研修規則に基づく規則で定められた期限は延長することができない。
Art. 30 異議申立理由
異議申立により異議が述べられるのは:
Art. 31 生涯研修規則の盲点
生涯研修規則及びそれに基づいた規則に、手続に関する規定が見出せない場合は、 − 可能なかぎり − 行政訴訟手続に関する連邦法の規定に準拠する。
[.実 施 − 及 び 移 行 規 定
Art. 32 実施規定
ZV は KWFB 及び FG との協議ののち、提出された生涯研修規則の実施規定を交付することができる。
Art. 33 移行規定
この生涯研修規則は Art. 19, 21, 及び 22の例外とともに 1995年1月1日に発効する。
Art. 19 及び 20 の制裁は3年周期の2回目の後の 2001年1月1日より言い渡されることができる。□
タイトルへ
これはスイスの医師生涯研修規則(FBO)の全訳である。スイス医師会広報部によると、生涯研修規則がこのような整った規則として作られたのはスイスが最初であるとのことである。これは草稿の段階、すなわち未議決原稿であるが、この通りに実施されることになった。あちらでの規則作成のプロセスを知る参考になるかもしれない。
ドイツ語では、Ausbildungが卒前教育、すなわち学部教育;Weiterbildungが卒後教育、すなわち専門医教育;Fortbildungが生涯教育と定義づけられている。WeiterbildungとFortbildungという言葉には、教育と研修の両方の意味が含まれるので、私は主として卒後研修、生涯研修という訳語を用いている。
なお、この生涯研修規則を読まれる場合に、卒後研修規則(D108)もご覧になられることをお薦めする。
また、スイスの一般医学卒後研修規則(家庭医専門医になるための卒後研修規則)とその解説も粗訳の段階にあるので、字句等の訂正を終えたらこのホームページに掲載したいと思っている。
なお、【 】内の文字と文章は訳者が書き加えたものである。
1998年3月20日 訳文修正
訳者 岡嶋道夫
タイトルへ