懲戒規定
ヴェストファーレン‐リッペ州保険医協会(KVWL)
der
Kassenaerztlichen
Vereinigung
Westfalen-Lippe
vom 12.12.2001
訳者解説 各州の保険医協会は懲戒規定を作り懲戒委員会を設けている。保険医協会に登録された医師の義務違反を処分する。保険医協会に登録されていない医師は医師会が同様の処分を行う。 ここに示したヴェストファーレン−リッペ保険医協会の懲戒規定は、他の州のものに比べると詳しい記述になっている。例えば§7 懲戒処分の原則は他の州の規定より詳しく、現在問題になっているリピーターを考慮した記述になっているので参考になるのではないかと思う。 このような懲戒処分の対象となったケースの統計は殆ど発表されていないが、たまたま隣接したノルトライン州医師会(管轄地域は人口約1千万人、医師数約3万6千人)が発表した2001年の統計によると、51名が注意ないし戒告処分、21人が罰金処分、28人が医師職業裁判所に回されたという。 なお、1998年に連邦の法律で心理療法士という身分が確立し、心理学系の心理療法士と医師の心理療法士が含まれることになった。このような事情により、本規定の中では医師と心理療法士が併記されている形になっている。 2003年8月 訳者 岡嶋道夫 |
目次
§1 懲戒権
§2 申立権限
§3 懲戒委員会の任務
§4 委員会の構成
§5 委員の除名と忌避
§6 懲戒処分の種類
§7 懲戒処分の原則
§8 地域の管轄
§9 関係人
§10 手続の開始
§11 懲戒手続の停止
§12 記録閲覧と訴訟代理人
§13 口頭手続
§14 裁定
§15 費用の補償の排除
§16 手続の再審
§17 他の手続との競合
§18 上訴
§19 執行
§20 発効
§1 懲戒権
(1)
ヴェストファーレン‐リッペ保険医協会(KVWL)の医師登録に記載された及び/又は契約医の診療を認可された
‐ 女医と医師(以下「医師」)ならびに
‐ 心理学的心理療法士(女性と男性)及び児童青少年心理療法士(女性と男性)(以下「心理療法士」)
はKVWLの会員として、法律、定款、契約、またはその他の契約医の規定、ならびにKVWL組織の決定によって負わされた義務を満たさなければならない。医師または心理療法士が契約医の義務に違反したときは、本懲戒規定により同人に対して懲戒手続を実施することができる。
(2)
資格認可を与えられた医師と心理療法士の義務違反、ならびに資格認可を与えられた施設の指導における義務違反に対しては、SGB V §95 (4) 3項に関連して(1)が準用される。
§2 申立権限
(1) 懲戒手続の開始には書面による申請が必要である。申請は:
a) 理事会よりb)に示した者に対して
b) KVWLの会員、資格認可を与えられた医師または資格認可を与えられた心理療法士、ならびに資格認可を与えられた施設の指導者から、それぞれ相互に対して
出すことができる。
(2) 懲戒手続実施の申請は懲戒委員会に提出し、書面で理由を述べなければならない。
(3) 申請は何時でも取り下げることができる。このような場合、手続は、開始された手続に障害のあることを示す通知によって停止される。
§3 懲戒委員会の任務
(1) 懲戒手続を実施するために、ドルトムントとミュンスターの行政府にそれぞれ一つの懲戒委員会を設置する。
(2) 委員会は、主張された義務違反の事実関係を解明し、この懲戒規定によって判断する任務を有する。
(3) 懲戒委員会の経常業務は、その時の行政機関の事務局によって処理される。事務局は口頭審理の記録を作成する。
§4 委員会の構成
(1)
懲戒委員会(複数)にはKVWLの会員、その者に支障が生じた場合の代理人が所属する;これらの者はそれぞれの行政機関の管轄地域で資格があるか(正規の委員)、または住所を有するか(特別の委員)でなければならない。
(2)
代議員大会は委員とその代理人(定款§9(1)h)参照)を選出する。委員とその代理人の任期は4年である。定款§6(2)は補足的に適用される。
(3)
各委員会はその中から委員長とその代理人を単純多数決で選出する。
(4)
委員は上からの指示を受けない。委員は任期の間およびそれを越えて秘密を守る義務がある。
§5 委員の除名と忌避
(1)
委員の除名に対してSGB
X § 16が適用される:さらに、公式に本人が懲戒手続又は職業裁判所手続又は刑事手続を受けている委員は、これらの手続の行われている期間は懲戒委員への協力から除外される。委員が、刑事手続で罰金または自由刑が確定したとき、又は懲戒手続あるいは職業裁判所手続で少なくとも戒告に相応すると確定したときは、委員の資格は失われる。
(2)
懲戒委員会の委員の忌避に対しては§ 17、SGB X §16 (4)が適用される。
§6 懲戒処分の種類
懲戒規定による懲戒処分は
a) 注意
b) 戒告
c) 罰金(125.00から10,000.00ユーロ)
d) 開業認可または資格認可の2年以下の停止(両者を同じ期間とする)。
§7 懲戒処分の原則
(1) 懲戒処分の種類は違反の重さに関係する。違反の評価に当っては、違反が行われた動機をとくに考慮する。
(2) 以前の懲戒処分が、現在の懲戒手続の対象となっているものと同種類の違反にもとづいているときは、新しい懲戒処分に関する決定を行う場合に、以前の懲戒処分を考慮にいれることができる。旧懲戒処分は、Ärzte-ZV §6 (3)で規定された保管期間を経過した後は、医師に負担を与えることはなくなる。これらの期限は以前になされた「注意」の評価に対しても準用される。【Ärzte-ZV医師開業認可規則によると、決定が取消しできなくなった時点から5年を経過すると、懲戒処分の記録は登録書類から削除し廃棄することになっている】
(3) いくつかの違反は、異なった義務違反によるものであっても、原則として統合し、関連付けて評価し、一単位の懲戒処分によって罰する。
§8 地域の管轄
(1) 懲戒委員会が管轄するのは、申請提出のさいに医師又は心理療法士が診療を行っている、又は資格認可によって業務に従事している地域である。
(2) 医師又は心理療法士が申請提出後に他の保険医協会の地域に転居し、そこで契約医又は資格認可医師又は心理療法士として従事しているときは、義務違反を処罰するのは、その医師又は心理療法士が行為していた地域を管轄する懲戒委員会である。医師又は心理療法士が申請提出の前に転居したときは、準用され、管轄は医師又は心理療法士がKVWLの地域で最後に医師として従事していた場所によって決る。
§9 関係人
懲戒手続の関係者は該当する医師又は心理療法士ならびに理事会である。
§10 手続の開始
(1) 申請受理後、懲戒委員会は懲戒手続の開始を裁定する。決定は書面に作成し、根拠を述べる。
(2) 懲戒手続を開始する条件が存在するかどうかを調査するために、懲戒委員会は場合によって必要な前捜査を実施する。懲戒手続開始に関する裁定をする前に、それまでの段階で批難を聞いておらず、また§2(2)による申請書類の中で当人の意見が考慮されていないときは、該当する医師又は心理療法士に意見を述べる機会を与える。
(3) 理事長が懲戒委員会に、懲戒手続開始前に、その医師のそれ以外の同様の違反を伝えたときは、懲戒委員会は開始決定において、これに関しても一緒に裁定しなければならない。(2)2項が準用される。
(4) 懲戒委員会の開始は、以下の場合には決定によって却下しなければならない
− 違反が判明してから2年を経過した、または
− 違反が5年以上前で5年の期間判明しなかった。
理事会が知った時点をもって判明した時点とする:違反が理事会の議事日程のなかで討議さることによって、判明したという扱いとになる。手続開始申請(§2(1)参照)が上記の期限内に懲戒委員会に届けられたときに、期限は守られたものとする。
(5) 加罰的行為を示すような違反の場合には、(4)を変更して、刑事訴追が時効にならない時点まで、懲戒手続を開始することができる。
(6)
対象が捜査手続、刑事手続、職業裁判所の手続、医師免許の取消または開業認可の停止、資格認可の取消であるような違反の場合には、(4)で規定された期限は先行する手続が完了したときから始まる。
(7)
(この条文は翻訳不能)Bei der Einleitung eines
Disziplinarverfahrens wegen dauernder Unwirtschaftlichkeit können nur
diejenigen Prüfmaßnahmen berücksichtigt werden, deren Rechtsverbindlichkeit
nicht länger als 5 Jahre zurückliegt.
(8) 前捜査を考慮して義務違反の嫌疑が十分に明らかにされなかったときは、決定によって懲戒手続の開始を却下することができる;違反が軽微であるため懲戒手続の実施が約束できないときは、手続の開始を却下することがきる。
(9) 懲戒手続が却下された決定に対して、§14 (5)と(6)が準用される。
(10) 懲戒委員会が懲戒手続の開始が必要であると考えたときは、医師または心理療法士はこれに関して書留郵便物で、同人に対して提起された批難を知らされる。同時に医師または心理療法士は、口頭審理の準備をし、定められた適切な期限内に、非難に対して書類で意見を述べることが要請される。
(11) 理事会の理事長が懲戒委員会に、その医師または心理療法士の同じような追加の違反を伝えた場合には、懲戒委員会は手続を後者に広げることができるが、この場合手続開始を改めて行う必要はない。医師または心理療法士は、このことについて知らされる;当人に意見表明の機会を認める。
(12) 医師または心理療法士が多数の違反に対して十分に疑わしいときは、それらの違反を一つの懲戒手続の対象とすることができる。
§11 懲戒手続の停止
該当する医師または心理療法士に対して、同じ違反によって刑事手続、職業裁判所手続、医師免許取消または開業認可の停止あるいは資格認可の停止の手続が係属する場合は、懲戒手続はこれらの手続が終了するまで停止することができる。手続の継続は裁定による。
§12 記録閲覧と訴訟代理人
(1) 関係者は記録を懲戒委員会の事務所において閲覧できる。
(2) 医師または心理療法士は手続のどの状況においても、医師または心理療法士を同人の代理人として、または/及び裁判官資格のある法律家を訴訟代理人として助言を求めることができる。口頭手続において医師または心理療法士が不在のときには、代理人による代理は受け付けない。
(3) 理事会は、手続に対する補佐として、行政の法律家の協力者に参加を求めることができる。
§13 口頭手続
(1) 懲戒委員会は口頭手続のあと裁定を下す。
(2) 懲戒委員会の委員長は、口頭手続の場所と日時を取決める。委員長は口頭手続の準備として、さらに捜査を命ずることができる。
(3) 召喚の期限は14日である。召喚は主張されている違反ならびにその告知を含まなければならないが、関係者が欠席の場合も手続が行われる。本人の出頭が必要とされる証人と鑑定人は、同様に委員長から14日の召喚期限遵守と証言事項が示されて召喚される。
(4) 懲戒委員会の手続は非公開である。関係者の他には、証人、保佐人、事務局の協力者、記録係だけが口頭手続に出席できる。該当する理事会は、口答手続において、理事会が委任する理事及び/またはKVWLの法律部の法律家協力者によって代理される。それ以外の人は、全ての関係者が出席にはっきりと同意したときにだけ会議に参加できる。
(5) 手続は、手続の最中に判明した他の事実を含めることができる。医師または心理療法士はこのことについて知らされ、同人に意見を述べる機会が与えられる。
(6) 事実関係の解明は、関係者からの聴取によって医師または心理療法士の行為と動機に及ばなければならない。有責だけでなく免責の方への事実も調べる。
(7) 懲戒委員会はSGB X §21により、証拠調の範囲を定める。証人、鑑定人及び情報担当者は原則として口頭手続で尋問あるいは聴取される。関係者がすでに手続開始の前または捜査過程において聴取されていたときは、それを免除することができる。供述あるいはそれに相当する書面での陳述に関する記録は、考慮することができる。証人と鑑定人の尋問は、SGB X §22により司法共助の枠内で行うことができる。委員会は、調査の目的から必要と考えたときは、証人の尋問の場合に、当該医師または心理療法士を外すことができる。しかし、医師または心理療法士は直ちに尋問内容について知ることができる。
(8) 証人と鑑定人は「証人と鑑定人の補償に関する法律」による請求により補償される。
(9) 手続の経過に関しては、出席した者の氏名を含み、かつ手続の本質的な経過を描写する記録を作成しなければならない。記録には関係者及び証人の言語による陳述を収録することができる;陳述は記録に収録される前に、記録係により聞こえるように読み上げられ、陳述を行った者により承認されなければならない。記録は記録係と委員長により署名される。記録のコピーは、§14(6)による決定と一緒に関係者に送付される。
(10) 委員長は、明瞭で適切な提案がなされることに寄与しなければならない。訴訟の対象を十分に討議したあと、委員長は口頭手続を閉じる。
§14 裁定
(1) 懲戒委員会は秘密の合議により多数決で裁定する。裁定のさいの棄権は許されない。裁定は、関係者が述べることのできた事実と証明に支えられていればよい。
(2) 裁定は、口頭手続の終了後定められた期限内に言い渡されなければならない。
(3) 裁定は、手続の停止、または懲戒処分を科すことについて述べることができる。
(4) 手続の結果、義務違反が存在しない、または十分に証明されない、あるいは軽微であるため処分が要求されないと思われる、あるいは§10 (4) –(7)による手続に障害があることが後になって確かめられた、ということが確定したときは、手続を中止することができる、
(5) 懲戒委員会の裁定は以下のものを含めていなければならない:
− 裁定に関与した懲戒委員会委員の氏名、
− 関係者及び保佐人の氏名、ならびに記録係及びその他の出席していた人の氏名、
− 口頭手続の日と場所、
− 決定した処置、
− 事実状況、
− 裁定の理由
(6) 決定定には上訴が可能であるという教示をつけ、委員長と陪席者によって署名され、関係者に送付される。
(7) 口頭手続の直後に、関係者が懲戒委員会の裁定を上訴しないと言って受諾したときは、書類による決定には事実関係と理由を簡潔に述べるだけにする。
(8) 手続の結果については、BMV-ħ60またはBMV-EK§ 51の規定により疾病金庫に通知される。医師登録はÄrzte-ZV§6 (3)に規定された範囲で、懲戒委員会の決定を保管する。それ以外に知らせる義務、または他の部署あるいはその他の第三者(証人、不服申し立てをした患者など)に対して情報を与える権利は存在しない。
§15 費用の補償の排除
費用は手続の結果に関係なく補償されない。
§16 手続の再審
既判力のある完了手続は、該当する医師または心理療法士の申請によって、以下の場合には再審が可能である;つまり、以前の手続のときには判明していなかった、医師や心理療法士に落ち度がないのに証拠として出せなかった、以前の確認と関連し、あるいは関連せずに適切である、手続の停止またはより軽い処分を裏付ける、というような新しい事実が判明したり、証拠資料が現れた場合である。処分がすでに執行されていても、再審の受理は可能である。
§17 他の手続との競合
(1)
医師の違反がノルトライン−ヴェストファーレンの医療職法における職業義務違反の内容を含むときは、ヴェストファーレン-リッペ医師会はKVWLの理事会を通して、これに関する通知を受ける。
(2)
捜査の結果、開業認可の取消の根拠となりうる構成要件が問題になっているときは、取消手続において既判力のある結果が出るまで懲戒手続は停止する。§11が準用される。
§18 上訴
懲戒委員会の決定は、それに対して、送達後1ヶ月以内に関係者から直接ドルトムント社会裁判所に訴えを起こす上訴が可能であることを教示しなければならない。
§19 執行
(1) 罰金は報酬から、または医師からの請求によってKVWLと相殺することができる。
(2) 罰金はKVWLに入る。
§20 発効
2001年12月12日の代議員会によって議決された懲戒規定(2000年4月8日版)の変更は、監督官庁の承認を得た日に発効する。*
* 2002年2月18日に監督官庁により承認された。
ドルトムント、2001年12月13日
Dr.Schiepe
代議員会委員長