需要計画ならびに供給過剰及び供給不足を決定する
基準に関する合同連邦委員会の指針(需要計画指針)
逐条的解説
第1章 指針について
§1 目的及び規定範囲
§1ではこの指針の目的と規定する範囲を示している。
目的は(1)に述べているように、契約医(開業医)の給付の需要に応じて、供給過剰と供給不足を調査し、必要があれば開業認可制限を行う、というものである。
(2)には、本指針で扱う項目を示している。分かりやすく述べると、
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契約医の需要計画
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医師グループごとに一般給付度と供給過剰を定める尺度や手続
医師グループというのは、各種専門医を14のグループに大分類したもの。
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開業認可制限の例外となる場合
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供給不足が差し迫っている場合の対応
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地域ごとに家庭医と他の専門医とのバランスを考える(家庭医の割合を確保する)
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単独の開業医だけでなく、複数の医師が共同で診療所を運営する場合の規定
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精神療法士の場合の規定【精神療法士の制度は1998年に制定、その構成は医師で精神療法に専心する者と文科系心理学を学び精神療法士の国家資格を有する者(日本の臨床心理士に相当)からなる。】訳者は精神療法士について勉強不足であり、日本と違った組織でもあるので、この指針の該当箇所は空白にしてある。
【この指針は契約医開業認可規則に基づいて作成されているが、すぐ目につくように、条文を構成する各種項目の定義や実施方法の原則などは、公的医療保険の基本法とも言える社会法典 V の中で詳しく規定されている。】
第2章 需要計画及び計画地域の確定
§2 需要計画及び計画地域
目的を果たすために、保険医協会は疾病金庫の連合体と協力して、医師給付の現場と需要を示す計画表を作成することになったが、これは1993年から始まった。その一覧表はAnlage 1(付表1)に示したとおりで、ここに出てくる統計内容はドイツ医師会が以前から作成しているものである。
少し詳しくなるが、表に出ている被用者医師というのは開業している契約医に雇われている医師で、ドイツではこのような雇用が認められている。また、権限を委託された医師というのは、病院勤務医であるが、その地域の特殊事情により開業医の業務を条件付きで手伝うことを認可された医師である。開業医と病院勤務医は元来別の組織に属するが、このような形での協力が認められている。
医療給付の過剰や不足を確定するために、計画地域(医療圏)を設定している。その一覧はAnlage 3.1に示している。連邦交通、建築及び都市開発省の国土整備計画(Raumordnung)が人口密度や都市及び農村の型によって10種類に分類した行政区域を医療圏と定め、その分類ごとに専門医1名当りの人口数を算出するという方法で専門医の定員を割り出した。その計算方法については後述する。地域は人口密度、居住地の種類、都市や村落の数と規模、経済構造、地理的条件、環境事情によって大きく異なるが、国土整備計画は総ての住民にできるだけ均等な生活の機会を与えるという憲法の精神に基づくものである。【訳者は現在ドイツの病院計画を調べているが、病院・診療科・ベッドの配置についてもこの憲法の精神が機能しているように感じられる】
ベルリンと同様に大都市ハンブルクも一つの地域になっているが、貧しい住民の住む地区で開業する医師が少なく、その偏在が問題になっていると聞く】
第3章 供給過剰及び供給不足を審査する出発点となる一般給付度の確定
§3 医師グループを決める基準
この制度を実施するに当って、専門医を14種類(当初は12種類)の医師グループに分けている。これについては指針の訳者注で述べているが、同文を以下に再掲する:
【訳者注:開業認可制限の制度で扱う「医師グループ」というのは、専門医制度の「専門医」の分類とは違う。今までに認定された専門医の種類は、サブスペシャルティ的なものも含めると、その名称は膨大な数になる。また、時代とともに専門医の研修内容や名称も少しずつ変化している。開業認可制度では、このような多岐にわたる専門医を§4医師グループに示された14種類の医師グループのいずれかに組み込み、そのように分類された医師グループに対して定員の枠を設けるという手段を用いているのである。】
§4 医師グループ
(1)に14種類の医師グループが列記されている。この医師グループに属する医師には、専門医1名に対して住民何人という割合、つまり一般比例数というものが定められる。
(2)医師グループに分ける大きな理由の一つは「家庭医」の分類にある。指針の内容を簡潔に解説すると、以前は家庭医の専門資格が全くなくても「家庭医」の業務を行うことができた。その後、家庭医の専門医資格が作られ、1995年からは家庭医(一般医学)の専門医資格がないと家庭医として開業できなくなった。また、1995年には、内科専門医と小児科専門医として開業していた医師に対して、今後内科または小児科の専門医として業務を続けるか、または家庭医業務に専心するかの二者択一の選択が迫られた。これによって、多数のこれらの専門医は家庭医業務に専心する道を選択した。このような家庭医の出現によって、家庭医の数は著しく増加することになった。後述するが、地域を見回したとき、家庭医と各種専門医の比率は6:4が理想的であるとする意識が存在する。
その他の医師グループについても類似した問題がある。例えば、「放射線科医」という医師グループには放射線科専門医、放射線治療及び放射線診断専門医、放射線診断専門医ならびに診断放射線学専門医という称号を有し、放射線診断のできる専門医が含まれる、といった具合である。
§5 医師グループ別の比例数Verhältniszahlの決定
計画地域に供給過剰と不足が存在するかどうかは、医師グループ別に算出される比例数(医師1人に対する住民数)によって定められる。この比例数は1990年12月31日に開業認可されていた保険医の数と§6に示す国土整備計画の計画地域とによって算出される。
【1990年ごろは全国的に開業医は過剰気味であった。現在にいたるまで比例数の算定基準が同じであるのは、そのためであろう。】
ところが1995年に、内科専門医を、引き続き内科の専門医として業務を行い、家庭医の業務を行わない専門医と、家庭医に専心する医師とに分けることになった。そのような制度改革のために、家庭医と内科専門医の比例数算定は1995年が基準となった。複雑で読みづらい記述かと思うが、§5(5)はこれに関連したことを述べている。
さらに§5(5)では、そのような比例数の算定例をイタリック表示で示している。ここでは、ベルリンやミュンヘンなどの中核都市が属する地域タイプ 1を例にとっている。分かりやすく説明すると、全国の中核都市の総人口は16.3百万人である。
そこで一般医(家庭医)として従事している医師は7,186人、医師1人当りの住民数は2,269人。
同様に内科専門医の数は4,432人、医師1人当りの住民数は3,679人となる。
一つのまとめ
§8の表とAnlage付表の31頁と32頁の計算方法を組み合わせると、それぞれの専門医と専門医1人当りの住民数の算出、そしてそれから導き出される医師過剰または医師不足の度合いを算出することができる。
お詫び
この段階で筆者の健康状態により以下の解説を省略することにした。
この場合、「D209 合同連邦委員会の指針 目次」は指針の全体像を把握する上で多少はお役に立つかも知れない。
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なお、以下の記述に見られるように、種々の角度からみた医師数や医師の合計診療点数量(診療報酬点数の合計)などの詳細な表を作成して審査し、医療の適切な給付に努めている。
医師グループの定員算定の基準は変化していないが、2008年ごろからは公的医療保険競争強化法により、この制度の下に医療需要によりよく対応するために、きめ細かな医療供給体制と報酬支払方法の試みがなされている。