ドイツの医療統計、病院案内Klinik-Lotse、DRG
1.
医療統計について
ドイツ連邦統計局の統計年鑑
ドイツ連邦統計局Statistisches
Bundesamtはその統計年鑑Statistisches
Jahrbuchに医療に関連する統計を多数掲載している。これらの統計は医師会やその他の機関で作成され、認知されたものが多い。例えば、医師会の作成した裁判外紛争処理(ADR)の処理件数などの全国統計も2006年から連邦統計に含まれるようになった。この年鑑では基本的な統計を毎年継続して掲載しているが、それに加えて年度替りで各種の他の統計や解説も紹介している。その多くは過去の記録も示し、経年変化を示すことに留意している。その内容は出典を明記すれば自由に利用できることになっている。筆者は主要な統計を紹介したいと思っていたが、その余裕はなかった。残念ながらこの年鑑は日本では限られた機関にしか存在しない。
2007年の年鑑に記載された主な統計の種類は(この中には年度替りの資料もある):
○ 基本的統計値の年次推移(医師などの数;病院及び予防リハビリ施設のベッド数、医療職者数;保健医療関連の支出額=公的医療保険、介護保険、年金保険、災害保険、民間保険;雇用者など)
○ 年齢及び州別にみた患者と受傷者
○ 処置別(医師、病院、病棟、無処置)
○ 病院を退院した患者数(ICD分類、年齢別、性別)
○ 予防またはリハビリ施設を退院した患者数(ICD分類、年齢別、性別)
○ 喫煙者(年齢別、州別)
○ 身長、体重及びBody-mass-index(年齢、性別、州別)
○ 年齢別死亡統計(ICD分類)
○ 病院(ベッド数、患者数、入院日数、病床稼働率)
○ 病院の職員(医師、看護職者、医療技術者、機能職者(=手術室、麻酔、外来、助産婦として働く)、教育従事者、生徒に分けて)
○ 診療科と入院前、入院後、日帰り的処置
○ 病院経費と内訳(医師以下の職員の人件費、物件費、医薬品などの医療需要、管理費、光熱費などに分けて)
○ 予防及びリハビリ施設(ベッド数、患者数、入院日数、病床稼働率)
○ 予防及びリハビリ施設の職員(医師、看護職者、医療技術者、機能職者、教育従事者、生徒に分けて)
○ 保健医療への支出(公的医療保険などの支払者;予防、医療給付、看護と治療、管理費その他に分けて)
○ 保健医療への支出(医師、歯科医師などの診療所、薬局、病院、その他多数の項目に分けて;教育、研究なども)
○ 保健医療従事者(医師以下の各種医療職関連の従事者の人数、年次推移)
○ 保健医療従事者(各種医療職従事者と施設、就業状況、年齢、性別、年次推移)
○ 各種ICD病名による疾病費用、年齢、性別
○ この他に医療従事者、住民1人当りの保健医療費用、喫煙者、肥満者などのグラフがある。
連邦医師会の統計
また、連邦医師会はそのホームページで医師に関する詳細な統計を過去に遡って公開している。その内容は:
表:
○男女別医師数(診療所、病院、役所や企業、リタイア別)
○医師数(州別)
○専門医の種類別にみた医師数と年齢分布
○専門医別にみた開業医の数と年齢分布
○新たに認定された専門医の種類と数
○外国人医師の出身国と就業場所
グラフ多数:上記の表の内容と、その年次推移を示している。また特異なものとして失業中と報告した医師数のグラフもある(2007年頃は約4,000人。詳細は不明であるが、専門医称号を取得したあと就職先を見つけるまでの失業状態なども含まれると思う)。
2.ドイツの病院案内Klinik-Lotse
ドイツは2003年に社会法典 V (公的医療保険の基本法といえる法律)に新たな条文を書き加え、ドイツの総ての病院の2004年における現状を調べ、これを「病院案内Klinik-Lotse」として2005年に発表することを義務づけた。これによって、2,050あまりある病院の詳細な内容をインターネットで誰でも自由に見ることができるようになり、患者は病院の診療内容を知り、選択しやすくなった。開業医が患者に入院を勧める場合に、必ず病院を二つ示し、患者に選択させることになっているが、患者はそれ以外の病院を選ぶこともできる。
一方、この「病院案内」は、病院の実情を透明にすることによって、質向上のマネージメントに役立たせようという大きな目的もある。病院案内は今までに2004年版、2006年版、2008年版が出ているが、新しい版が出ると過去の版は消去される。
Klinik-Lotseのアドレスは www.klinik-lotse.de
また、Googleで”Klinik-Lotse”の検索語でアクセスできる。
ドイツ語でないと読んだり、検索を広げたりすることが困難であり、ドイツ語のウムラウト文字を使用しないと該当箇所は開けない。
「病院案内」は2,000あまり存在するドイツの総ての病院について経営主体、病院の診療に関する膨大かつ詳細な情報を提供している。主な点をしめすと、ベッド数、入院患者数、外来患者数、その病院の主要な診療能力、各診療科とその取り扱う専門領域、医師及び看護師の数、扱った患者の疾患のICD分類と数、処置したDRGの種類と数、評価成績などである。
医師については診療科ごとに専門医資格を有する医師とそうでない医師(研修医と専門医資格を有しない医師)とに分けて数が記載されている。その数は実働の医師数を示しているので11.3人といったような端数になっている。
また、特定の病院の郵便番号を入力し、5km、10km、20km、50km、100km と指定すると、その病院から指定した半径内の全部の病院が正確な直線距離とともにリストアップされる。その際に心臓手術、卒中発作などの項目を入力すると、その半径内の病院で該当する診療を行っている病院を見つけることもできる。
ドイツの病院の特色を述べておくと、地域に展開する急性期病院(1次)は内科、外科、産婦人科を必ず置いて救急や日常の医療に対応しているが、日本の総合病院と違って、それ以外の診療科を持たないところも多い。しかし、小規模の病院でも主要な診療科は十分な数の医師を雇って対応しているので、救急の人手が足りないという事態にはならない。その病院にない診療科の診療を必要とするときは転送するネットが確立している。
また、各病院が作成したホームページへのリンクも可能であるので、病院の設立趣旨や外観・施設の写真を眺めることもできる。
D272〜D275は病院案内Klinik-Lotseから筆者が編集したものである。これらの都市はランダムに選んだ。またD276でミュンスター市を選んだのは筆者が留学した都市であるというだけの理由である。
3.ドイツの病院におけるDRGの導入について
ドイツでは1990年代に外科系のDRGの導入を完了した。その後外科系以外のDRGを決めるのに手間取ったが、オーストラリアの方式を採用し、2003年から2007年にかけて導入を行った。D274、D275は病院案内2006年版に掲載されていたDRG導入の状況を示したものである。しかし、2008年版の病院案内ではDRGのデータは示されていない。その代わり総ての病院の総ての診療科について扱ったICD分類の疾患数が示されている。
DRGは毎年実情に合わせて修正する必要があり、その作業は続いている。以下にDRGの導入に関するニュースを示しておこう。
2007年4月19日のドイツ医師会雑誌ニュースレター(オンライン)
「病院協会: ドイツはDRGの世界チャンピオンである」
ベルリン − このような広さと深さで、またこのような短期間で病院のFallpauschalen(DRG)が導入された国は他にはない。このようにドイツ病院協会の会長のRudolf Kösters氏は第6回DRGフォーラムで説明した。
病院は支出の大半つまり600百億Euroを1,082のDRGと105の付加支払Zusatzentgelteで清算している。ドイツは世界チャンピオンWeltmeisterと言いきれる。ドイツのDRGシステムは2003年から摩擦なく導入が行われたことはドイツの病院の大きな功績である。
Kösters氏によると、DRGシステムはたえず適応していくことが重要である。医学の進歩はこれを要求している。DRGシステムは新しい検査や治療方法を受け入れなければならない。
4.ドイツ医師会雑誌Newsletterの医療情報
ドイツ医師会雑誌は2003年ごろより、豊富な医療情報をNewsletterとして毎日オンラインで送信してくれる。その量は週70本を超える。ドイツ医師会雑誌のホームページ http://www.aerzteblatt.de/ のNewsletterのサイトから誰でも申し込むことができ、無料である。これについてはD281ドイツ医師会雑誌Newsletter紹介に、ニュースの見本とともに紹介している。
2010年9月
岡嶋道夫