M401
ドイツの医療制度について 透明性の高い理想的な保健医療制度 |
東京医科歯科大学 名誉教授 岡嶋道夫 |
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日本は明治の初めにドイツから医学を学び、現在も厚生省はドイツの医療保険制度や介護保険制度を参考にして政策を決定しています。しかし、不思議なことに、ドイツの医療に対する基本的考え方や実情は、日本ではほとんど紹介されていません。信じられないことかもしれないが、この資料をお読み下さると、その事実が御理解いただけると思います。 日本の医療制度は現在実に多くの問題点を抱えているが、その原因の多くは現行の健康保険制度に由来し、それが社会保障制度の宿命であり、また欠陥であると受け止めている人が多数いるのではないだろうか。日本はドイツの社会保障制度を参考にしているので、ドイツにも同じような問題が発生していると思い込んでいる人もいると思います。 そのように考えておられる方は、ぜひこの資料に目を通して下さい。おそらく、想像なされなかったような医療制度が眼前に展開されることになります。これらが一朝一夕の産物ではなく、社会保障制度に取り組んできた人間の英智の積み重ねによって築き上げられたものであることにお気付きになられるでしょう。 この資料は、内容の客観性を確保するために、この「まえがき」以外には著者の主観や個人的感情を盛り込まないように極力注意を払いました。しかし、読者の理解に必要と考えたときは、解説めいたものを[訳者注]の形で挿入させていただきます。集録の素材はドイツ連邦医師会雑誌、ドイツ州医師会雑誌、ドイツ厚生省の出版物などが主体ですが、これらの記述は政策や実情を客観的に正直に伝えているので、安心して読んでいただけます。 本資料は講演原稿を基にして作成したので、一貫性に欠ける面もありますが、今後資料を追加していきたいと考えています。また、手を広げる余裕がなかったので、病院関係の情報が少なくなっています。 日本人の目はアメリカなど英語圏に向けられており、厚生省以外はドイツに無関心であるというのが実際でしょうが、ドイツの医療制度は安定した基盤と多くの長所を持っているので、この辺でドイツを見直して勉強することは有意義と思います。また、ドイツの資料に接すると、そこからヨーロッパ全体の情報に触れる機会も得られます。 e-mail: okajimamic@hi-ho.ne.jp 1998年8月25日 内容加筆訂正(1998年9月7日、1998年10月9日、…、1999年3月12日、1999年3月29日、1999年7月11日、1999年9月1日) |
ドイツ医師会会長、世界医師会会長になられたProf. Sewering(1971年に、日本医師会が主催した日独医学交流100年記念に来日し講演した)はドイツの家庭医と専門医の歴史について次のように書いている。(ドイツ医師会雑誌1987年9月3日号)
「1924年にドイツ医師会議は、長い討議を経た上で、『専門医の認定と実際業務のための主題』と題する指針を決議したが、当時の報告者は、ここに至るまでの事情を以下のように述べている」
『医学は前世紀の中頃から予想を超えた広がりと深みを増した。その結果として各種の専門領域が分れてきた。この専門性は、病気の際に開業医を迂回して、直接に専門医の助けを受けるという傾向を助長し一般化してしまった。その必然的結果として、自由診療だけでなく、保険診療においても開業医は押し退けられ、年配の経験ある家庭医は消滅へ追いやられることになった。
そのように開業医に被害が生じたので、開業医も一般診療の傍ら一つの専門に転じ、「一般医+専門医」という第三の分類に属する医師群を発生させた。これはその後、一般の人をも巻き込んだある種の混乱を引き起こし、また医師としての職業の尊厳性を傷つける結果となってしまった。
このような弊害は、立法手段によって取り除くことは困難である。その理由は、営業規則のようなものが適用されたならば、その中で医師の身分に序列化が条件づけられてしまうという憂うべき可能性があったからである。そこで医師たちは、一致して立法的干渉を拒絶し、営業規則の制定ではなく、その上を行くものとして、自分たちで自由に作る身分規定により明確な身分を創り出すことを決定した。
開業医は、家庭医として再び以前の権利に復帰されるべきであり、専門医は数年間の特別教育を受けて試験委員会によって証明されることにより、専門医として認定されるべきである。但し、専門医はその専門領域に限定され、家庭医としての開業を行ってはならない。開業医と専門医の癒着は職業倫理を損うものとして禁止する。』
ドイツでは以上のように規定して、1924年に14科からなる専門医制度を発足させた。その内訳は、
卒後研修期間−4年:内科、外科、産婦人科
3年:その他の科、すなわち胃腸代謝、肺疾患、小児疾患、尿路疾患、神経及び精神疾患、整形外科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚性病科、歯−口腔−顎疾患、レントゲン学及び放射線治療。
そして「専門医は、その専門的業務を行うのに必要な特殊設備が使用できるようになっていなければならない。専門医は、原則として本人が選択した専門並びに診療時間、病院及びコンサルタントとしての業務に限定しなければならない。家庭医としての実務を行ってはならない。」ことを決定した。
そして、専門領域の標榜は1専門科に限定された。
このようにして発足したドイツの専門医制度は、戦後何回も改革が行われたが、その経過は省略する。
特筆すべきことは、1968年に一般医学の卒後研修規定が新たに加えられ、一般医学の専門医、すなわち家庭医を業務とする専門医が発足した。それ以降は、従来型の家庭医である実務医と、一般医学専門医が共存するようになった。実務医はその経験と実績により逐次一般医学の専門医の資格を取得している。
そして、1994年からは、家庭医としての業務を行う契約医(保険医の資格を取得していて、定員の枠内で開業する医師)として、新たに認可を受けるためには、一般医学の専門医資格を取得しなければならなくなった。
そして間もなく、家庭医は全部専門医になってしまうが、1968年にスタートした制度が、30年後の今日ようやく完結に近づいている。
これに伴い、内科専門医(または小児科専門医)として開業していた医師は、1995年末までに内科専門医(または小児科専門医)として止まるか、それとも家庭医業務を行う医師になるかの選択をしなければならなくなった。内科専門医と家庭医は、給付内容で重なる点はあるが、診療をしても報酬がつかない給付を設けることによって、業務の分担をはっきりさせる。
米国の専門医制度が発足した年 アメリカの卒後研修ガイドブック(1971年から) |
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眼科 |
1917 |
内科 |
1936 |
耳鼻咽喉科 |
1924 |
病理学 |
1936 |
産婦人科 |
1930 |
麻酔科 |
1937 |
皮膚科 |
1932 |
形成外科 |
1937 |
小児科 |
1933 |
外科 |
1937 |
整形外科 |
1934 |
神経外科 |
1940 |
放射線科 |
1934 |
物療医学リハビリ |
1947 |
結腸直腸外科 |
1934 |
予防医学 |
1948 |
精神神経科 |
1934 |
胸部外科 |
1948 |
泌尿器科 |
1935 |
Family Practice
|
1969 |
現在は内科、外科などからなる41の専門科があり、その下に内分泌、胸部外科などのサブスペシャルティがあるのはアメリカなどと同じである。研修期間は科によって異なるが、通常5年又は6年である。
例えば内科の専門医の研修期間は6年であるが、消化器のサブスペシャルティの資格を得るためには、消化器の研修を2年間行わなければならない。この2年のうち1年分を6年間の中で研修できるが、少なくとも残りの1年分は6年間に付け加える形で研修しなければならない。すなわち、少なくとも7年を必要とする。また、外科は6年であるが、胸部外科のサブスペシャルティを取得するには、3年の研修が必要で、そのうち2年は6年間の外科研修にプラスされた形ででなければならないから、合計8年はかかることになる。
このようなサブスペシャルティとは異なった特殊領域の研修コースが多数設けられていて、修了した者には証明書が発行される。上記の専門科と併記して標榜できる領域と、証明書を持っていても標榜できない領域とがある。
専門科とサブスペシャルティの種類、またそれらの組合せなどは、卒後研修規則の改正に伴って変化していくので、分類は大変複雑になっている。例えば、小児外科、形成外科、心臓外科は以前は外科のサブスペシャルティであったが、新しい規則では独立した専門科となっている。
専門医名称は時代とともに変化するだけでなく、ドイツの場合は東西ドイツ統一後に、旧東ドイツにあった専門医名称(例えば、解剖学、生理学、生化学など)が残されていたりするので複雑である。
したがって、専門医の種類を列挙することは煩わしいだけでなく、あまり重要ではないと思われるので、もしご入用の方があったら1995年末の専門医数を記入した一覧表を差し上げます。
卒後研修規則は共通規則と専門科別の規則とからなる。
共通規則部分では研修を受ける条件、義務、試験などについて詳述されているだけでなく、指導医となる医師の資格と責任が厳しく規定されている。指導医は指導を受け持つ科の専門医であって、専門能力と人格で適確であることを求められるが、担当した研修医の研修内容の詳細だけでなく、試験を行ってその評価を医師会に常置されている試験委員会に提出する義務がある。指導医のリストは公表されるが、指導を認められた病院を去るとその資格は消える。
EUの卒後研修規則を取り入れているが、EUの規則では研修がフルタイムであるかパートタイムであるかを厳重に規定している。
また、開業医も資格を認められれば卒後研修の指導医になれるし、開業医での半年ほどの研修を研修過程に含めている専門科も多い。
昨年のドイツ医師会雑誌によれば、研修医に支払われる給料は、一般勤務医と同様に疾病金庫から支出される。開業医が研修を担当したときは開業医の経営努力に頼っているようであるが、昨年のドイツ医師会雑誌によれば、この費用は疾病金庫の負担にすべきであるという意見が載っていた。
ドイツの専門医制度には一度大きな危機が訪れた。1970年ころに2名の医師が、専門医の標榜が1科に限られているのは、職業選択の自由に反するという訴訟を憲法裁判所に起したため、裁判所は多角的な調査を開始した。医師たちは専門医の認定が医師会から行政に移るのではないかと心配したが、それはなかった。しかし、複数の専門を標榜して差支えないという判決が下ってしまった。
その判決を受けて医師会は、卒後研修規則を変更しなければならなくなったが、2専門科までならば標榜できるという規定に改め、例えば内科と皮膚性病科、内科と小児科、内科と臨床検査なら併用できる、という形式で多数の組合せを作った。しかし、ここで注目すべきことは、家庭医(一般医学専門医)だけは単独標榜と定め、他の専門科を標榜することを認めなかった。この難局に遭遇しても、家庭医の業務の本質を認識し、その業務遂行を守った歴史的事実は注目に値する。。
しかし、この変則的な規定は1992年の大改訂のときに消滅し、再び専門科の標榜は1科を原則とするようになった《日本医事新報No.3810、平成9年5月3日、73-75》。
ドイツでは人口の92%が公的医療保険に加入し、同時に公的介護保険にも加入している。
人口の7%は民間医療保険に加入しているが、民間介護保険にも加入する義務がある。
公務員は公的医療保険には加入していないが、国は民間医療保険と契約を結んで公務員の医療保障を確保している。このような公務員や、最近民営化された鉄道と郵政関係の勤務者は民間介護保険に加入する義務がある。しかし、これらの人たちの保険料は、公的介護保険の額を超えてはならないという規定がある。
収入が限度額以下の人は公的医療保険に会員として加入する義務がある。限度額を超える人には義務がなく、公的医療保険に加入できないが、特定の期間公的医療保険の会員であったというような条件を満たしていると、経済的に民間医療保険より有利な公的医療保険に加入することができる。
公的医療保険の医療は現物給付で行われるが、医薬品や治療材料、入院、リハビリなどの療法(急性期の治療では不要)では一部自己負担額を支払うことになった。しかし、自己負担額は所得の2%が上限で、それ以上支払ったときは超過分が戻る仕組みになっている。薬局は領収書を作る。
慢性患者(前年も同じ疾患で継続的に自己負担した患者)の自己負担は所得の1%を上限としている。
低所得者800万人と18才以下の1,200万人は自己負担から免除される。
公的保険の種類と保険料率 総所得に対して 1998年 |
|
医療保険 |
13% - 14% |
介護保険 |
1.7% |
老齢年金保険 |
20.3% |
失業保険 |
6.5% |
災害保険 (ドイツ医師会雑誌1998年8月14日号) |
100マルクの給料に対して 1995年 1.46マルク 1996年 1.42マルク 1997年 1.40マルク |
医療保険に対する国民の満足度(グラフ)
医療保険に対する満足度(%) (ドイツ医師会雑誌1996年11月1日号) |
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|
公的医療保険 被保険者本人 |
民間医療保険 加入者本人 |
とても満足 |
18 |
15 |
満足 |
78 |
77 |
不満足 |
4 |
9 |
疾病金庫の種類、被保険者数割合、総所得に対する保険料率
疾病金庫の種類 |
被保険者数の割合 |
総所得に対する保険料率 |
地区疾病金庫 |
42% |
13.7% |
補充金庫 職員補充金庫 労働者補充金庫 |
37% |
13.9% 13.0% |
企業疾病金庫 |
11% |
12.8% |
手工業疾病金庫 |
6% |
13.0% |
連邦鉱山従業員組合 農業疾病金庫 海員疾病金庫 |
4% |
14.0% |
1997年より被保険者は疾病金庫を自由に替えることができるようになった(連邦鉱山従業組合、農業疾病金庫、会員疾病金庫は例外)。これにより、自分に有利な疾病金庫を選ぶことができるし、疾病金庫の間に競争原理が働くことになる。その結果1998には、日本の国民健康保険に相当する地区疾病金庫の加入者数は140万人、すなわち2.6%減少し、他の疾病金庫、とくに補充金庫の加入者が増加した。
所得が多くて公的医療保険に加入できない人は、通常民間医療保険に加入し、診療を受けた場合、開業医、薬局、病院などに直接支払って明細書を受け取り、これを民間医療保険に提出、契約に従って全額または一定の割合でお金を受け取る(療養費払)。
<98.10..9.:以下2節の文章加筆訂正>
公的医療保険でない私費診療(民間医療保険)の場合、診療費は通常公的医療保険の2.3倍までという上限がある。特別に重症で多大の労力と時間がかかった場合には3.5倍まで請求できることになっているが、その場合は詳細な理由説明を書く必要がある。なお、検査室検査の上限は2.3倍でなく1.15倍までというように、主治医以外が扱う料金は低くなっている。
現実に民間医療保険での請求額がどのようになっているかというと(ドイツ医師会雑誌1998年7月13日号)、診療所の医師の場合は、2.3倍以上の請求は8.1%、丁度2.3倍の請求は87.5%、2.3倍以下の請求は4.4%となっている。病院医師の場合は、それぞれ32.4%、65.4%、2.2%となっている。
このような私費診療の場合は、診療を開始する前に、医師は診療費をどのレベルにするか患者と相談して決めなければならない。救急の場合は公的医療保険の条件で処置を開始する。
私費患者(民間医療保険の患者)は、病院の部長医や大学教授の直接の患者となって診察を受けることができる。また、通常一等、二等の病室に入院する。部長医(教授)はこれにに対して、民間医療保険の上限の範囲内で請求書を書いて患者から直接支払いを受けることができる形になっている。その場合、受領した金額のうちどれだけを病院に納めるかについては、個々の病院との間で契約を結んでおく。このような特権は、公務員法の例外規定として認められているものであるが、実際には病院事務がこれらの事務を代行することになっている。
このように私費患者は部長医(教授も含む)の患者となることができるが、部長医は病棟の総ての患者に対して責任を持つので、主治医のようになることはできない。その患者の直接の世話は、部長医が選んだ代理医が受け持つ。その場合、診療を開始する前に、部長医は代理医を患者に紹介し、患者が承諾すれば代理医としての契約書に署名することが手続上必要となる。
公的医療保険の患者であっても、部長医の診察を受けたり、一等、二等病室に入院することができる。その差額分の支払に当てるために民間医療保険と契約を結んでおくこともできる。ドイツの部長医は私費ベッドを持ち、給料以外の収入を得ているという話が古くから伝わっているが、以上のように法律に基づいて行われるので、日本の謝礼的な性格のものとは異なる。
以下の表は平均値であるので、約半数の医師はこれより低い収入である。
労働時間は年間1ヶ月の休暇を取った計算になっている。
開業医の収入と労働時間(1990年) 単位 マルク
|
家庭医 |
専門医 |
公的医療保険収入 |
272 770 |
373 661 |
自由診療収入 |
43 854 |
99 577 |
合計(総収入) |
316 624 |
473 228 |
人件費 |
76 774 |
113 726 |
物件費 |
90 146 |
152 916 |
業務費合計 |
166 920 |
266 642 |
業務費の割合 |
52.7% |
56.3% |
納税前の所得 |
149 704 |
206 586 |
所得税(結婚、子供2人) |
30 976 |
53 702 |
老齢年金保険料 |
19 328 |
19 328 |
医療保険保険料 |
9 600 |
9 600 |
診療所貸付金の償還 |
14 092 |
19 582 |
手取り金額 |
75 708 |
104 374 |
週間労働時間 |
56.7時間 |
53.8時間 |
年間労働時間 |
2721.6時間 |
2582.4時間 |
診療1時間当りの総収入 |
116.34 |
183.25 |
診療1時間当りの所得金額 |
55. |
80. |
診療1時間当りの手取額 |
27.82 |
40.42 |
(ドイツ医師会雑誌1992年11月6日号より)
税法上の年間所得の中には、所得税、老齢年金と医療保険の保険料、及び診療所貸付金の平均の償還が含まれる。
貸付金は、診療所開設のために当初必要となる総経費234,870マルク、並びにその後の補充と拡充のための投資が見込まれ、計算上償還が25年に分割される。
一般医が自分のものとして使える手取り金額は平均75,708マルク。
一般医は週56.7時間働く(一般就労者は37.5時間)。
1時間当りの手取りは27.82マルク。これは会社の中級サラリーマンまたは比較的高い地位の公務員と全く差がないと書いてあった。しかし、働く時間が多いだけ所得総額は多くなっている。
専門医の収入は一般医より多いが、科によって著しいバラツキがある(バラツキの調整については後述)。
ドイツでは保険の診療報酬請求は四半期(3ヵ月)ごとに提出する。各診療行為と処方には4桁の番号がついていて、全部コンピュータで集計される。被保険者本人と家族、各診療行為と処方、専門医別に集計され、ランダムに抽出された2%のサンプルの平均値と比較され、規定で定められた割合を超えているときは、内容の審査やカットが行われることになる。前年同期より規定%以上増加しているものもカットの対象となる、などの処理をした後保険医協会に診療費が一括して渡される。
特殊な患者(例えば透析や癌患者)が多数集る特殊な診療所の場合は、予め特殊性を届けておくと、平均値処理とは別の方法で審査がなされる。
審査委員会は保険医協会と疾病金庫から委員が同数出て構成される。委員長は半年交替で保険医協会と疾病金庫から出る。
一括して渡された診療費の配分は各保険医協会に一任されているので、皆がもっとも納得する方法で配分が行われる。このような配分方式は昔から定着しており、そこには「一つの鍋を分かち合う」という伝統的協力精神が存在する。
異議申立の期間も含めて、次の4半期の請求を提出する前に各医師への支払額が確定するらしい。このように、医療費の支出額が4半期を終えるとすぐに分るので、これを眺めて次期の保険料率をどの程度上げるか下げるか、またどのような施策を講ずるかの判断が可能となる。
昨年の改革によると、症例数が一定枠を超えた場合、1点の単価が専門医によって差をつけることができるようになり(例えば、ある州の医師会の案では、一般医専門医 9.0ペニヒ、内科専門医で家庭医業務に従事する医師 9.2、心臓病専門医 8.7、外科、泌尿器科専門医 7.0など)、専門医間の報酬の格差が是正されることになる。(1999.9.1.訂正)
家庭医を最初に訪れる割合 ドイツ人の平均は41% |
|
農村居住者 |
45% |
大都市居住者 |
32% |
35才以下 |
22% |
56才以上 |
58% |
慢性疾患患者 |
52% |
急性疾患患者 |
36% |
(ドイツ医師会雑誌1997年6月6日号)
ドイツ医師会雑誌(1998年4月17日号)によると、専門医を直接訪れる傾向が増し、1996は前年に比し10.6%増加し、一方専門医に転送される割合は9.2%減少したというが、それについてのコメントは示されていない。
家庭医の業務 ヨーロッパ30ヵ国のプライマリケア医師からの回答 |
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診療所で日に患者40人以上診療する家庭医の% |
診療所の外で週に15以上の往診をする家庭医の% |
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ドイツ |
62 |
ドイツ |
76 |
オーストリア |
51 |
オーストリア |
76 |
イギリス |
17 |
オランダ |
60 |
スイス |
15 |
イギリス |
55 |
オランダ |
14 |
スイス |
7 |
デンマーク |
3 |
ノルウェー |
6 |
フィンランド |
1 |
デンマーク |
2 |
ノルウェー |
0 |
フィンランド |
1 |
(ドイツ医師会雑誌1996年11月15日号)
開業医の定員は全国558の行政地域ごとに定められる。これらの地域は国土地理院?の地誌(人口密度、都市型、農村型、その組み合せの構造などによる)によって10分類されているが、各地域の住民の年齢、性別、職業などの構成要素や地勢などを配慮して各専門医の対人口割合を出し、定員を定めている。医師密度が地域的に偏っていたり、特殊な専門領域の医師が不足するときには、委員会(保険医協会と疾病金庫から同数の委員が出る)の承認があれば定員を超えて認可することもできる。定員は3年毎に見直しが行われる。
現在多数の地域並びに大多数の専門において定員は充足されてきているが、充足度のもっとも低いのは家庭医業務に従事する医師である。
1999年より年齢制限が行われ、68才を終えると保険医の認可は終了する。また、55才を超えてからの開業はできなくなる。
定年制を定めた法律の注解によると(Dalichau-Gruener: Gesundheits-strukturgesetz. Kommentar.
Verlag R.S.Schulz の原文をそのまま翻訳):
契約医の増加は公的医療保険の支出増加を来している。給付過剰は、開業制限を行い、若い世代の医師に担当してもらうことにより抑制できる。そのためには義務的な年齢制限は必要である。
通常医師は68才を過ぎれば十分な老齢年金が支給されるので、年齢制限導入は該当医師に対する権利侵害とはならない。老齢年金に至るまでの十分な期間を従事していなくても、契約医には例外が予定されていて、20年という境界期限に達したという扱いを受けることができる。
契約医としての従事が「自由業」であるということは、定年制の導入と対立するものではない。法的な侵害からの解放という権利請求にはならない。契約医は公法上の関係を有し、契約医診療の認可によって資格がはじめて得られるので、契約医業務の規定における立法府の考えている自由は、他の自由業とは隔たりがある。【注:他の自由業というのは弁護士、計理士、教師など】
定年制に関しては、ドイツの医師の間で大きな問題にはならなかったようである。少なくなった患者を引き摺って開業しているよりは、年金生活に入った方が良いという見方が多いらしい。また、医師の老齢年金基金は州ごとにあり、それぞれが独立に運営されている。ドイツ医師会雑誌によると、医師年金基金による1995年の老齢年金の平均支給額は月額 3826マルク、職業不能者年金は平均4135マルク、年金受給者数は56,999人で、年金の保険料は月額
平均1325マルク。また、保険料収入は44億マルク、年金基金の資産総額は488億マルク、資産収入は35.7億マルク。将来年金受給を期待できる期待権者数は28.8万人という。なお、寡婦(夫)年金は半額、児童手当は約340マルクとなっている。歯科医師、薬剤師、獣医師も同様の年金システムを持っている。
スイス医師会雑誌(71巻21号、1993)に掲載されていた「医師の収入」と題する記事には、70才を過ぎて開業している医師も少しはいるが,その収入は少なくなっている。開業を開始する平均年齢は38才、開業を終える年齢は62ー64才、従って開業している期間は平均24ー26年であるので、約25年の間に自立稼得者として老後の備えも築かなければならない、と書いてあるが、これには老齢年金の保険料が含まれるものと思われる。なお、診療所に投資した自己資産の5.0%は毎年必要経費として差し引けるとしている。
ドイツでの医師診療所の開設、または引継ぎに要する平均の費用の統計が、ドイツ医師会雑誌1998年7月13日号に紹介されている。あるバンクの調査によるものであるが、1995-6年においては平均36.1万マルクで、もっとも低いのは精神神経科医の23.8万マルク、麻酔科、一般医学(27.1万マルク)と続き、さらに小児科、皮膚科、婦人科、眼科、内科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、整形外科、外科の順に高くなっている。整形外科と外科は60万マルク前後である。その費用のうち、設備と医用機器の費用が62%、運営費のクレジットが26%、建築改造費が10%とのことである。
州医師会は医師の自治組織であるが、州政府から医師を監督する権限を委譲された公的組織でもあるので、各種の医療行政関連の法規で定められた諸事項を管轄する。したがって、医師の自治組織ではあるが、その運営費は州政府が支出する。医師会の業務内容は総て州政府に報告し、承認を得なければならない。もし医療の質を低下させたり、杜撰な管理を行ったりすれば、行政、議会、マスコミ、その他から非難を受け、業務は医師会から取り上げられて行政に移されてしまうので、医師会は自治の伝統を守るために最大の努力をしている。
卒後研修規則と専門医認定も州医師会の大きな任務の一つである。
医師としての業務に従事する者は総てその会員になる義務がある。しかし、監督官庁に所属する医師には加入の義務はない。医師会費は医師としての所得の0.45%であるが、低所得の医師の会費は格安となる。年間所得30,000マルク以下の医師や退職した医師の会費は36マルクで、年間50冊の医師会雑誌などが貰えるので、医師という職業の誇りを生涯保つことができる。
各州の医師会から医師数に比例して選出された医師代議員によって構成される私的な組織であって、ドイツ医師会議を開催して重要な問題を討議し議決を行う。その理事会によって、職業規則、卒後研修規則、その他の医療行政の基本となる各種の規則、提案、指針などが企画立案される。この医師会は1873年に第1回の会議を開いたが、ナチスの抑圧により1932年から1947年までは開催されていないので、1997年5月に第100回の記念の大会を開催した。
医師の職業上及び倫理上の義務を定めた規則。最近は毎年のように改訂が行われている。1993年版はインターネットの下記ホームページに掲載
http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/d101.htm
参考までに、病診連携、診診連携、診療記録に関連した条文を職業規則並びに救急業務規則から抜粋してみた(後述)。
前世紀の後半にドイツ各地で、医師に職業義務を守らせ、医師職業の名誉を喚起することを目的として医師組織が作られた。前世紀後期に医師の職業裁判所を国家レベルで作ることを提案したが、ビスマルクが国家レベルということに賛成しなかったために実現しなかった。しかし、医師組織はその後も活発に活動を続け、1935年に全国統一の医師の職業裁判所制度が実現したが、現在は州ごとにその規定が定められている。第一審は裁判所所属の専門職裁判官1名と医師会より推薦された名誉職裁判官2名、第二審は専門職裁判官3名と医師会より推薦された名誉職裁判官2名で構成され、調査と審理が行われ、判決が下される。(名誉職=法律辞典によると、無報酬、しかし交通費などの経費は支払われる。連邦や州などの各種委員会の委員は、通常名誉職の扱いとすることが国の法律で規定されている)
職業裁判所は通常の裁判所の下位に位置するが、医師職業規則などに規定された事項で、医師と患者間、医師相互間、医師会やその監督官庁と医師の間に生じた義務違反や倫理違反を審理して判決を下す。罰則には注意、戒告、医師会の被選挙権停止、罰金、免許の停止、それらの組合せなどがある。
患者の苦情を受け付けて審査する調停機関は、これとは別個に医師会の中に存在する。医師会の中に設置されていても、患者の不満や不信はあまりないと言われている。
このような職業裁判所は歯科医師、薬剤師、獣医師でも存在する。同じ事件に関して通常裁判所(刑事訴訟)で裁判が行われるときは、職業裁判所は審理を停止して、通常裁判所の結果を待つ。
§20 他の医師の患者の診療 [医師職業規則]
(1) 医師はその診療時間内にすべての患者を診療することができる。他の医師の治療を受けている患者から請求されたときは、医師は、患者またはその家族から、前にかかった医師に、そのことを伝えるようにさせなければならない。
(2) すでにかかっている医師に連絡が取れない状況にある患者のところに救急で呼出された医師は、救急処置の終った後可及的速やかに、もとの医師に報告し、その後の処置を任せなければならない。
(3) 病院での治療が終ったあと、患者は入院が指示される前に治療に当っていた医師に戻されるべきである。外来治療または監視への再予約は、患者の診療を受け持っている医師の同意があるときにだけ許される。
(4) 医師は他の医師から頼まれた援助を、止むを得ない理由がない限り断ってはならない。
(5) 医師は、他の医師から送られた患者が、同人の治療業務終了後も引続いて処置を必要とするときは、再び戻さなければならない。
(6) 対診の場合、関与した医師たちは患者や家族のいる前で相談してはならない。医師たちは、誰が対診の結果を伝えるかについて、意見を一致させるものとする。
§21 代理医と医師の協力者 [医師職業規則]
(1) 医師は自分の診療を自ら行わなければならない。
(2) 医師たちは基本的に、相互の代理をすることを心掛けるべきである;引受けた患者は、代理が終ったら戻されなければならない。
(3) 代理を必要とする支障が合計で3ヵ月以上12ヵ月以内に及ぶ場合には、代理人が診療に従事することを医師会に届け出るものとする。
(4) 代理を依頼しようとする医師は、代理医の人物が規則で定められた代理に関する条件を満たしていることを確認しなければならない。
(5) (5)(6) 省略
§1 職業活動 [医師職業規則]
(10) 医師は原則として同じ専門科の医師だけに代理をさせるべきである。
§24 医師の救急業務 [医師職業規則]
(1) 開業医は救急業務に参加する義務がある。医師は、重大な理由のある場合には、申請によって救急業務から全部、部分的または一時的に免除され得る。これがとくに適用されるのは:
○
身体的障害のためそれができない状態にある、
○
特別に負担のかかる家庭的義務により参加が要求できない。【注:これは主として介護を指す。介護保険ができた後この条項が削除された州がある。また子供の養育はこの中には入らない】、
○
救急サービスをともなった臨床待機業務へ参加すること、
○
女医の場合には出産の少なくとも3ヵ月前と少なくとも6ヵ月後。
(2) 個々の救急業務の制度と実施については、医師会の発行した指針4)によって決定される。救急業務参加の義務は、定められた救急業務地域に適用される。
(3) 救急業務制度は、現に診療に当っている患者のために、その病状が必要としているケアを担当するという義務から、医師を免除するものではない。
(4) 医師は、(1) により救急業務参加から免除されない間は、救急業務のための生涯研修もしなければならない。§10 (生涯研修を義務づける規定)が準用される。
§1 原則 [救急業務規則(地方医師会と保険医協会の共同)]
(1) 総ての医師は、掲示した診療時間外でも同人の患者の診療を保証する義務がある。
(2) この救急業務規則に特記されている時間帯に住民の診療を確保するために、緊急の場合に対する救急業務を設定する。
(3) 救急業務は緊急の場合に診療を行い、急性疾患を処置する。
(4) 救急業務は各救急業務地区の総ての患者に対応するが、以前に診療していた医師の診療所が他の救急業務地区に存在する患者も含まれる。
(5) 医師は救急業務に従事するさいに、同人の救急業務地区を離れてはならない。このことは、救急業務地区に居住していない患者から請求があった場合にも適用される。例外として、生命に危険な状態、及び救急業務担当の医師に連絡がとれないときには許される。
§2 一般救急業務 [救急業務規則(地方医師会と保険医協会の共同)]
(1) 週末と祝日には医師の救急業務が組織される。
(2) 全国的祝祭日ではなく、その地域に限定した祝祭日については、歴年に2回まで特別に救急業務を設定することができる。保険医協会の地区医師組織は、翌年の期日を年度末に通知しなければならない。
(3) それ以外の診療時間外の時間に診療所所有者が不在になるときは、同僚医師に代理を委任する。この代理医が医療業務を確保するのに十分機能しない場合には、地区医師組織の理事会は同僚医師代理についても組織化された形のものを作らなければならない。これは各専門医領域に対しても該当する。
§5 時間 [救急業務規則(地方医師会と保険医協会の共同)]
救急業務は、地区の協定を損うことなく、通常は土曜日と法定祝日には 8:00 時に始まり、日曜日または祝日の翌日の
8:00 時に終る。
§9 除外 [救急業務規則(地方医師会と保険医協会の共同)]
救急において患者の診療が十分に保証できないため、救急業務参加が不適任であると思わせる理由が存在するときには、保険医協会の理事会あるいは地方医師会は、地区医師組織からの申請により、その医師を救急業務への参加から除外することができる。
診療録について
(1) 医師は、その職業従事において確認したこと及び施した処置について必要な記録を作成しなければならない。これは医師の記憶に役立つだけでなく、規定に従った記録作成によって患者の利益にも役立つ。
(2) 医師は、患者の要望があれば、原則として当人に関連した診療記録を見せなければならない:医師の主観的印象または感知したことを含む部分は除外される。請求があれば、患者に費用負担をさせて記録のコピーを渡さなければならない。
(3) 他の法律規定によってそれより長期の保存義務が存在しなければ、医師の記録は診療終了後10年の期間保存しなければならない。
(4) 診療所の閉鎖後は、医師はその医療上の記録と検査所見を (3) により保存するか、または管轄の監督に渡されるように配慮しなけければならない。診療所の閉鎖または診療所の委譲により、患者に関する医師の記録を監督のため渡された医師は、これらの記録を施錠して保管しなけらばならないが、患者の同意があったときにのみ中を見たり、または引き渡すことができる。
(5) 電子データ記録媒体または他のデータ記憶装置上の記録は、変更、破棄または非合法的使用を防ぐために、特別な安全及び保護処置を必要とする。医師はこれに関して医師会の提案に注意しなければならない。
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ドイツ医師会雑誌(95(38)、98年9月18日号)
1997年に公的医療保険で自己負担をした人数と額は以下の通りである。
被保険者の3分の1、すなわち2400万人が自己負担から除外されたが、その内訳は990万人が低所得者、1400万人が18才以下であることによる。また、271,000人が所得の2%に達したため、それ以上の自己負担分が免除された。慢性患者は自己負担が所得の1%に達するとそれ以上の自己負担が免除されるが、その該当者は56,000人であった。
1年間の自己負担の合計額は120億ないし130億マルクに達した。
医師職業規則は頻繁に改訂され、1997年には内容と体裁が大幅に改められたが、その中の診療記録作成義務については、(2)に示すような開示とコピーに関する規定が書き加えられた。
§10 記録作成義務
(1) 医師は、その職業従事において確認したこと及び施した処置について必要な記録を作成しなければならない。これは医師の記憶に役立つだけでなく、規定に従った記録作成によって患者の利益にも役立つ。
(2) 医師は、患者の要望があれば、原則として当人に関連した診療記録を見せなければならない:医師の主観的印象または感知したことを含む部分は除外される。請求があれば、患者に費用負担をさせて記録のコピーを渡さなければならない。
なお、法的解説によると、医師と患者関係を損う恐れのある主観的記述部分については、別の記録を作成するのがよいか、または覆いかくしたり黒く塗りつぶすのがよいか、が議論になったが、前者ではかえって患者の不信感を増す恐れがあるということで、後者が多数意見であったと述べられている。
記録の記述は、素人の患者に理解できるものであっても、また理解できないものであっても、どちらでもよいことになっている。従って、短縮語や記号を使用することは認められている。但し、記録は同僚医師に読めるものでなければならない。ホームドクターが不在の場合には同僚医師が代理医となる制度なので、その代理医が読めるものということである。昔から医師の悪筆は定評があり、薬局で処方箋の判読に苦しむことも少なくないとも言われている。
ついでに、隣国のスイスの医師職業規則について述べてみる。スイスは従来各カントン(州)ごとに医師職業規則を持っていたが、1997年7月1日にスイス医師会が全国統一の規則を制定した。それによると、
第13条 情報請求権
患者は自分の疾病記録の情報を請求することができる。請求に応じてコピーを作成し、引き渡さなければならない。
医師は、第三者のより大きな利益、または本人のより大きな利益のために必要なときは、情報提供を拒絶、制限または延期することができる。
また、カナダの医師会倫理綱要(1996年8月改訂)によれば、
第24条 記録に含まれるその情報が患者または他の人に実質的な害を及ぼすであろうと信じられる止むをえない理由がなければ、患者の請求により、その患者の医学的記録のコピーを患者または第三者に提供しなさい。
何れの国も単純に「開示」と「コピー」を義務づけているのではなく、条件がついている。これ以前には、診療を引継ぐ医師に記録を伝えるという規定はあったが、患者を対象にした規定がなかったので、大きな変化と受け取ることができる。
民間医療保険の被保険者は、居住環境の良い一人室あるいは二人室に入院できるが、この場合病院には公的医療保険より高い病室代が支払われる。これは入院時の快適性に対する割増金に相当するものである。
割増金の額は、給付提供に比して不適切な割合であってはならない、と法律で規定されてきた。しかし、近年は病院の請求が、年に6%ないし9%という割合で増額されてきた。そして病院の3分の1は割増金が割高になっていると言える状況になった。
そこで民間医療保険協会は1997年12月に、病院に対して割増金を値下げするように要請した。その1例を示すと、1日の一人室の割増金が341マルク、二人室で318マルクという高いものも現われていた。しかし、値下げ要請の効果は5ないし40マルクという不満足なものに止まった。
ところで1997年7月の法律改正により、民間医療保険に始めて訴権が認められることになり、一人または二人室の適正な割増金の額について、裁判で適正価格を決めてもらえるようになった。そこで民間医療保険協会は、12の病院を相手にして割増金値下げの訴えを起こした。
民間医療保険協会が、差し当たって示している実際的な平均額は、二人室が120マルク、一人室が180マルクである。これだけの金額があれば、現在の平均より良い給付提供をしても経済的に見合うとしている。もちろん、はるかに高度の給付提供をしている病室であれば、上記の平均額を超えても協会は認めるという姿勢である。
一方、ドイツ病院協会は、病院所有者が独占的に民間医療保険の被保険者に条件を押しつけている、という非難を退けている。
以上のような記事がドイツ医師会雑誌95(31/32)、1998年8月3日号に掲載されていた。
ところで、NHKのBSテレビは毎日外国のニュースを放送しているが、2000年の夏頃のドイツのニュースで、社会裁判所が一人部屋、二人部屋の病室の差額について判決を下したことが伝えられた。メモしていなかったので、不確実であるが、民間医療保険協会の提示した額より少し高めではあったが、それに近いものであったような印象を受けた。このようなことが国際ニュースとして伝えられるところに、ドイツの医療制度の性格が伺えるような感じがする。
公的医療保険の被保険者でも、入院のときには差額(割増金)を支払えば一人室や二人室に入れるので、その分の支払いに当てるために、民間医療保険に追加契約している人が少なくないという。この辺に、入院の時に支払う差額や自己負担がいくらになるか予測がつかずに不安を抱え、それに備えて貯蓄をしている日本とは大きな違いが認められる。
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あとがき これは本年7月15日、船橋市医師会林直樹医師のご依頼により、その研究会で報告させていただいた原稿に加筆したものです。この内容は、神奈川県大和市で大和臨床医学談話会を25年以上主催してこられた菊地博医師から昨年依頼された講演を礎石とし、それまでに菊地医師から数多くの問題提起を受けたこと、及びドイツから入手された多数の貴重な資料を提供していただいたことが、この報告を作成する契機になっていることを感謝しています。今後も加筆改定を続ける所存です。 ドイツの医療について日本ではあまり知られていない内容が多いのではないかと思いますが、ご感想やご意見がありましたらご遠慮なくお知らせ下さい。今後の勉強の参考にしたいと思います。なお、内容を転載される場合は事前にご連絡いただけると幸です。 1998年8月25日 e-mail: okajimamic@hi-ho.ne.jp |