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M403

臓器移植について(メモ)

岡嶋道夫

 

http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m403.htm

掲載1999年5月15日

日本では1999年2月に、臓器移植法施行後最初の脳死判定による臓器移植が行われたが、これに関連してテレビ、新聞、週刊誌などのマスコミでは、いろいろな視点から報道を行なっている。また、私が参加しているメーリングリスト(mhr)でも、多数の方が色々な意見を寄せている。

しかし、それらを見ていると、米国の臓器移植については多数の情報が紹介されているのに、それ以外の国については殆ど触れられていないことに気がつく。そこで私は数回にわたって、上記のメーリングリストに下記のような内容のメールを提供した。

そして今回、このホームページにそれををまとめて掲載することにした。

 

外国の臓器移植、とくに心臓移植について:

2月27日に書いたメールを素材にして)

日本最初の脳死判定と臓器移植が報道されるや否や、「脳死報道の異常さ」というテーマで多数のご意見がメーリングリストに寄せられた。私も皆さんと同様大変に異常だと感じたが、この機会に視点を少しずらしてみては如何かと思って以下のようなメールを送った。

ところで今回の脳死判定の行われる直前の2月初旬の新聞に、英文の「臓器提供意思表示カード」が出来たと書いてあったので申し込んでいたところ、2月20日にカードや解説のパンフレットが「日本臓器移植ネットワーク」から送られてきた。そのことを報告しようかなと思っていたときに、今度の第1例が発生した。もし、御関心があったら、「日本臓器移植ネットワーク」の下記のホームページをご覧下さい。インターネットでも意思表示を受け付けているそうです。

http://www.medi-net.or.jp/tcnet/

このホームページには興味ある各種の情報、例えば外国における心臓移植の年次別データなども掲載されている。一寸失礼して1995年に実施された心臓移植の数を引用させていただくと、

欧米では、アメリカ2361、ユーロトランスプラント732、フランス408、イギリス338、スカンジアトランスプラント106、という移植数が出ている。なお、このユーロトランスプラントというのはオーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、ドイツが参加しているネットである。

一方、アジア・中近東地区では、韓国20、タイ13、台湾24、香港4(4未満は省略)となっている。

このような数字は新聞やテレビではあまり紹介されない。とくに、韓国や台湾など、隣国においてこれだけの数の心臓移植が行われているのを知って認識を改めたが、これらの国並みに日本でも行われていたら、心臓移植で助けられた人の数は、今までに百人をはるかに超えていたことであろう。

 

中部ヨーロッパにおける臓器提供者について:

(5月12日に書いたメールを素材にして)

わが国では5月12日に、第2例目の脳死判定と臓器移植が実施された。

ドイツ医師会雑誌(1999年1月29日号)に、1997年におけるドイツなどの臓器移植に関する統計が載っていたので、それを紹介することにする。

ドイツはオーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダとユーロトランスプラントというネットを組んで臓器移植を行なっているが、人口百万人に対する臓器提供者の割合は、ベルギーとオーストリアは約22−24人、一方オランダは14人、ドイツは13人くらいであって、ドイツは毎年4カ国のうちでは最低となっている。そのためドイツは臓器を貰う方が多くなっていて、このアンバランスを解消したいということで悩んでいる。

また、1997年におけるドイツの臓器移植実施数と新規の移植希望者数は以下のようになっている。

 

 

移植実施数

新規移植希望者

腎臓

2249

2922

肝臓

762

876

心臓

562

985

膵臓

146

205

120

171

 

そして、臓器提供者の意思表示に関する内訳は:

3%

提供を意思表示する証明があった

15%

意思がはっきりしていた

82・/FONT

死者が臓器提供に同意すると推測された

 

ドイツでは1997年12月に、日本とほぼ時期を同じくして臓器移植法が制定されたが、それによって病院において臓器提供を申し出た数は13%増加したという。ドイツ医師会雑誌(1999年2月26日号)には、1998年と1997年の移植数が下記のように紹介されている。

 

 

1998年実施数

1997年実施数

腎臓

うち生体移植は

2340

343

2249

 

131

120

膵臓

183

146

心臓

542

562

肝臓

722

762

 

しかし、臓器移植を希望している人の数はドイツだけで13,000人以上に達しているので、その需要はなかなか満たせない状況にある。

ご参考までに:1997年12月に施行されたドイツの臓器移植法と臓器提供意思表示カードについては、全文を翻訳したものを私のこのホームページに掲載しているので、拙劣な翻訳で恐縮であるが、もし興味があったらご覧下さい。

http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/d110.htm 

 

ドイツにおける心臓移植手術の費用は:

(3月8日に書いたメールをもとにして)

年に500件以上の心臓移植が行われているドイツでは、心臓移植は公的医療保険の給付の枠に入っているので、順番がくれば誰でも経済的負担なしに移植が受けられることになっている。

臓器移植にどの程度の医療費がかかるかについては、医療費の仕組に関する専門的知識がない私には正確なことは言えない。しかし、ドイツでは1995年から73種類の医療給付に対して定額制が導入され、その対象の殆ど総てが手術であって、その中に心臓移植も含まれている。

たまたま、昨年秋に定額給付の一覧表を国会図書館の法令資料室で見る機会があり、その一部をメモしておいたので、いくつかの手術の定額を比率の形にして比較してみることにする。これは人件費と物件費を合わせた点数であるが、ある程度の見当がつけられるのではないかと思う。

大変おおまかな表現であるが、胆石摘出手術が約6,000、虫垂切除やヘルニア手術が4,000前後、冠動脈バイパスが約25,000、心臓人工弁装着が30,000前後とすると、心臓移植は100,000位の割合になっている。移植手術も他の疾病と同様に公的医療保険が負担するので、手術や退院後の各種処置において患者には負担はかからないはずである。

なお、その時にメモしなかったので数字を示すことはできないが、生体腎移植の場合は、手術の対象が2名となるので、心臓移植より高額になっていた。ドイツでは1995年より73種類の給付を定額制にしたが、その一覧表を見ると、その殆ど総てが手術を対象にしている。もし、この資料に関してご関心をお持ちでしたらご連絡ください。この定額の制度は施行後3年を経過したが、一応定着し、今後は国の規則を州レベルに移して範囲を拡大することを考えているようである。

 

イスラムに関連して:

ところで、「日本臓器移植ネットワーク」のホームページの表を見ると、中近東における臓器移植は極端に少なくなっている。

たまたま今年始めに、外国の友人が「イスラムとアラブから見た倫理と医学」という論文を見つけ、そのコピーを送ってくれた(Ethik Med.(1998) 10:134-142)。それには臓器移植に関連することも書いてあったので、ここに付記することにした。

その論文によると、イスラムは科学を高く賛美し推進させるので、急速な現代医学の発展(クローン、臓器移植、死、安楽死など)は、神との統合及び予言者たちの尊厳及び人間の尊厳を引下げるようなことさえなければ、宗教とは矛盾しない、とのことである。そして、各論として安楽死、妊娠中絶、臓器移植、クローンについての明快な態度が紹介されていたが、一応キリスト教の国と同じであるとしていた。そこで、臓器移植に関する部分を以下に翻訳してみることにした。

<<<<翻訳開始>

イスラムは科学の進歩と人間の尊厳への奉仕には極めて寛容で解放的である。最初に専門医チームが提供者の確実な死を宣言し、他の医師チームが受容者への移植を行うことがその条件となる。

 自明のことであるが、提供者は死亡前に自由意思かつ無償で、この提供を書面で認めるか、または2名の証人の前で証明しなければならない。あるいは最も近い近親者が、提供者の死亡後に無償で同意することもできる。人の臓器の販売はいかなる場合も無条件に禁止され、処罰される。

 人間の尊厳は(例え死刑の宣告を下されたとしても)神聖であり重要な位置を占めるので、提供者で死刑の宣告を下された者には、上記の条件が適用される。

<翻訳終わり>>>>

このように、イスラムの教義では臓器移植を承認しているとのことなので、実施数が少ないのは教義以外の諸要素によるものと思われる。この論文では脳死については触れていなかった。イスラム、回教に関する知識を全く持ち合せずに読んだので、不適切な引用であるかもしれないがご参考までに。

以上