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T603
マニュアル類の種類と拘束力
現在マニュアルとかガイドラインの類が沢山作成されています。従来の教科書の知識だけでは、実際の診療を行うことはできない時代になっています。現場での判断と行動には、その目的で作成されたマニュアル類が必要です。しかし、マニュアルに書かれている内容は、どのようなレベルの医師を対象にしているか、どの程度の拘束力があるかといった点で、大変な議論があるように聞いています。
私はこの問題に対して今まで深く考えたことはなかったのですが、たまたまドイツ連邦医師会のホームページに、医療の質を確保するのに必要であるということで、マニュアル類の拘束力について定義づけているのを見つけました。1998年6月に作られたものですが、ご参考になるかもしれないと考え、その全文を翻訳して以下に紹介いたします。
なお、マニュアル類の用語のニュアンスを正確に翻訳表現することは難しいので、[仮訳]という形で示すことにしました。
以下がホームページに載っていたものです。
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Richtlinien(仮訳:指針), Leitlinien(仮訳:手引き), Empfehlungen und Stellungnahmen(仮訳:勧告及び見解)の拘束力について
医師の医療行為の質は、とくにそれぞれの専門領域の専門家によって作成された基準によって確かめられる。拘束力はRichtlinien(仮訳:指針)の場合にもっとも強い。
ドイツ連邦医師会
1998年6月1日
医師の医療行為の質は、医学の専門家のほかに法律、哲学、倫理および神学の専門家によって作成された基準によって確かめられる。ドイツ語の用語においては、拘束力は下記の順番に従って弱くなるという概念が定着した。
Richtlinien(仮訳:指針):
Richtlinien(仮訳:指針)は、多くの場合機関によって公表され、行為すること及び行為を控えることを示した規定で、個々の医師には僅かな裁量の余地しか認められないものである。それに注意を払わないと制裁の対象になりうる。Richtlinien(仮訳:指針)と類似する拘束力を有するものにStandards(仮訳:スタンダード)があるが、これは質が要求するものを満たす基準と解されるものであって、通常は厳密な記述になっていて、技術的−命令的な性格を強く有する。
Leitlinien(仮訳:手引き):
それに比べると、Leitlinien(仮訳:手引き)は、特定の診断及び治療で問題が提起された場合、適切な処置方法について、システマチックな展開で述べられる判断援助である。Leitlinien(仮訳:手引き)は医師に、根拠のある症例においては変更してもよいという判断の自由裁量や行動の幅を与えている。
Empfehlungen
und Stellungnahmen(仮訳:勧告及び見解):
これらは、医師及び一般の人の注意を、修正が必要かつ注目すべき事態に向けさせようとするものである。包括的な情報と説明という内容を伴ったメモランダムが役立っている。その内容は、知識の最新状態また場合によっては古くなった知識に関して、医師の判断形成に有益である。
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なお、ドイツは質の確保、向上については大変熱心です。
ドイツ連邦医師会のホームページには、連邦医師会が作成したRichtlinien(仮訳:指針), Leitlinien(仮訳:手引き), Empfehlungen
und Stellungnahmen(仮訳:勧告及び見解)のリストが掲載されていて、その数はそれぞれ23、5、31です(2002年9月現在)。何れも無料で全文が読めますし、ダウンロードできるようになっています。
ドイツ連邦医師会のURLは
http://www.bundesaerztekammer.de/
指針、手引き、勧告及び見解のリストへは
http://www.bundesaerztekammer.de/30/Richtlinien/index.html
上記医師会のURLの目次からアクセスすることができます。
また、上記のURLを開いていくと、連邦医師会以外の指針類にもアクセスできます。例えば、卒後研修規則で定められた規定の細則に相当する指針、つまり資格認定に必要な詳細な研修項目や症例、検査の経験数などを見ることもできます。
連邦医師会の指針、手引き、勧告及び見解の題名を翻訳したものがあります。ご希望でしたらメールでご請求下さい。
岡嶋道夫