EC:75/363/EEC
of 16 June
1975
concerning
the coordination of provisions laid down by law, regulation
or
administrative action in respect of activities of doctors
(75/363/EEC)
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1975年6月16日の
理事会命令(指令)
医師業務のための法律及び行政規則による規定の調整について
(75/363/EEC)
訳者解説 EU(欧州連合、ヨーロッパ共同体)では、医師もEU圏内において国境を超えて自由に医療に従事できることを目指して、1975年にこの指令を含む数編の指令を作成した。医師の場合、言語、医学教育(卒前と卒後)、とくに専門医の種類と卒後研修は国によって著しい差があるので、他国で教育を受けた医師の開業を規制なしに許可することは難しい。この問題を解決するために、専門医の種類と研修を比較し、統一化することを目指してここに示すような一連の指令が作成され、各国の間で調整が進められることになった。 日本では卒後研修と認定医制度がほぼ固まってきたところであり、EUとは直接の交流はないが、グローバル化の時代であるので、EUから学ぶべき点が多々あると思われる。とくに、わが国の研修医の勤務条件は勤務環境、時間、手当などに多くの問題を抱えているが、この指令から改善への強力な示唆が得られるかもしれない。また、これに関連して下記ファイルも参考になるかもしれないのでご覧いただければ幸いである。 研修医などの勤務時間について(m409.htmまたはm409.pdf) この指令は卒後研修を扱ったものであるが、この他にCouncil Directive (75/362/EED)では、加盟各国の卒前教育とその認定方法、専門医教育とその認定機関、各国の専門医の種類、これらに関連する証明書の作成と取り扱い、開業する権利などに関する規定が詳しく示されている。また、Council Directive (75/364/EED)では、この問題を扱う諮問委員会の規約が述べられている。また、1985年には一般医(家庭医)に関する指令が出されている。これらの指令は後日必要に応じて改正や追加が行われている。 EUの医学に関する資料はわが国では馴染みが薄いと思われるので、その中の一つを翻訳して紹介することにした。 2001年2月11日 岡嶋道夫 |
THE COUNCIL OF THE EUROPEAN COMMUNITIES(ヨーロッパ共同体理事会)は、
European Economic Community (ヨーロッパ経済共同体)設立の条約、とくにその
Art. 49, 57, 66 及び 235 により;
Commission (委員会)の提案を考慮して;
European Parlament (ヨーロッパ議会)の意見を考慮して(1);
Economic and Social Committee (経済及び社会委員会)の意見を考慮して(2);
以下の事実に照して本命令 (DIRECTIVE) を採択した:
医学の免状、証明書及びその他の正式資格証明の相互承認、並びに開業の権利及び業務提供の自由の権利の行使を容易にする方法に関して、1975年6月16日の命令 75/362/EEC(3) によって規定された医学の免状、証明書及びその他の正式資格証明の相互承認を達成するために、加盟国の研修コースを比較してみることは、この領域における最低基準とされる必須条件を調整すること(coordination)を可能にする、その上で加盟国には、それ以外での教育を組み立てる自由が残されることになる;
【訳者注:「医学の免状、証明書及びその他の正式資格証明」というのは医学部の卒業証明書、医師国家試験の合格証などの総称である。国によって卒前教育完了の証明が異なっているからである。例えばドイツでは、大学は卒業試験を行わないので、卒業証明書は存在しない。唯一の証明は医師国家試験の合格証である。】
専門医学における免状、証明書及びその他の正式資格証明の相互承認のために、また加盟国の全職業従事者に対してヨーロッパ共同体内で同じ基盤を設けるために、専門医学の研修のための条件の調整が必要と考えられる。この目的のために、専門医研修を受ける最低条件、最低期間、研修の方法、及び研修実施場所、並びに卒後研修の調整が規定されなければならない。その条件は、総ての加盟国に共通して存在する、あるいは加盟国のうち2国またはそれ以上の国に存在する専門科だけを対象とする。
この命令で努力する職業従事に対する調整は、それ以外の調整を排除するものではない。
この命令で努力する調整は医師の職業従事に関係する。多くの加盟国は今まで、職員の身分にある医師の教育と、非雇用の立場にある医師の教育とを区別していない。ヨーロッパ共同体のなかの職業所属者が制限のない自由を持つことを促進するために、この命令の適用を、職員の身分を有する医師に拡大することが必要と考えられる。
Article 1
(1) 加盟国は、医業を開始し、これを行なおうとする者に、命令
No 75/362/EEC の Art. 3 により、同人がその全教育期間の間に以下のことを習得したことを保証する医学の免状、証明書またはその他の正式資格証明を所有することを要求する:
(a)
医学の基礎となる科学の適切な知識、及び科学的方法の十分な理解、並びに生物学的機能測定の原理、科学的に確立された事実の評価及びデータの分析を含む;
(b)
健康及び病気の人間の構造、機能及び行動の十分な理解、並びに健康な状態と人間の物質的及び社会的環境との関係;
(c)
精神的及び身体的疾患、予防、診断及び治療の視点からの医学、及び人の生殖の統一された概念を与える臨床の学科と診療の適切な知識;
(d)
適切な指導の下での病院における適切な臨床経験。
(2) このような医学教育の全期間は、大学における、または大学の管理の下での、少なくとも6年間のコースまたは基礎及び臨床の
5,500時間からなる。
【訳者の考え:これは卒前教育についての条件で、ヨーロッパの医学教育は日本と同じ6年間である。5,500時間とあるのは米国の4年間の医学教育を指しているものと思う】
(3) このような教育を受けるためには、候補者は加盟国の大学のこのような教育コースに進むことのできる免状または証明書を所有しなければならない。
(4)
1972年1月1日以前に教育を受け始めた者の場合は、(2) の教育は、所管官庁の監督の下での大学レベルの6ヵ月のフルタイムの実地教育を含んでもよい。
(5) 加盟国がその独自の規則によりその国土に関して、加盟国で取得したものではない免状、証明書またはその他の正式資格証明の所有者に対して、医師の業務を開始し、実施することを資格づける便宜を、この命令はいささかも傷つけるものではない。
Article 2
(1989年10月30日改定)
(1) 加盟国は、専門医の免状、証明書またはその他の正式資格証明の取得のために行われた卒後研修が、下記の条件を最低限満たしているように配慮しなければならない:
(a)
Art. 1 による教育コースの枠組みの中での6年間の勉学を完了し、それが認可されていることが条件である。歯、口腔、顎及び顔面外科(医師と歯科医師の基礎教育)に対する専門医の免状、証明書またはその他の正式資格証明の発行については、上記のほかに、命令78/687/EECのArt.2による歯科医師としての教育と認定を条件とする;
(b)
研修は理論的教育と臨床実務的教育を包括する;
(c)
研修はフルタイムとして、また所管官庁または添付資料の1.による機関の監督で実施される;
(d)
研修は大学のセンター、大学病院、教育病院、または所管官庁または機関によって、この目的のために認可された医療施設で実施されなければならない;
(e)
専門医になる予定者【訳者注:指導する立場のレジデント】がその部門で協働するために動員され、責任を持たなければならない。
(2) 加盟国は、専門医としての免状、証明書またはその他の正式資格証明を、Art.
1 による医学的免状、証明書またはその他の正式資格証明を所有することと関連づけて発行するようにする。歯、口腔、顎及び顔面外科(医師と歯科医師の基礎教育)に対する専門医の免状、証明書またはその他の正式資格証明の発行については、上記のほかに、命令78/687/EECのArt.1による歯科医師としての免状、証明書またはその他の正式資格証明の所有と関連づけて行う。
(3)加盟国は、Art.
9 で規定された期限内に、 (1) に示した専門医の免状、証明書またはその他の正式資格証明の発行権限を持つ官庁または機関を明示する。
Article 3
(1982年1月26日改定)
(1)
フルタイムを基盤とする卒後研修が明確な理由で実行できない場合には、Art. 2 (1) (c) で述べられたフルタイムの原則を傷つけることなく、また理事会が (3) により定めた期限まで、加盟国はその国の所管官庁によって特別に承認された条件下で医師のパートタイム研修を認可することができる。
(2)
パートタイムによる卒後研修は添付資料の第2項により、フルタイムの卒後研修と同等に行われ、質的に同じ水準を有していなければならない。この水準は、卒後研修がパートタイムであることや私的な稼得業務によって影響を受けてはならない。
【改定前の条文では「パートタイムということによって、または個人開業で収入を得ることによって損われてはならない。」という表現が用いられていた】
医師の卒後研修の総合期間は、パートタイムであることによって短縮されてはならない。
(3)
理事会は1989年1月25日までに、委員会の提案に基づいて状況を審査し、(1)及び(2)を続けるか、または変更すべきかを決定する;その場合に、それぞれの専門科について個別に審査した状況を踏まえ、パートタイム卒後研修の機会を継続すべきかについて考慮される。
Article 4
(1982年1月26日改定)
加盟国は、それぞれの専門科に対して提示された下記の専門医研修の最短期間が守られることに配慮する:
第1グループ: 何れも5年
− general
surgery
−
neuro-surgery
−
internal medicine
− urology
− orthopaedics
第2グループ: 何れも4年
−
gynaecology and obstetrics
− paediatrics
− pneumo-phthisiology
− pathology
− rheumatology
− psychiatry
第3グループ: 何れも3年
−
anesthesiology and reanimation
−
ophthalmology
− otorhinolaryngology
Article 5
(1982年1月26日改定)
この領域において法律及び行政規則により規定を作成した加盟国は、下記のそれぞれの専門科に対して提示されている卒後研修の最短期間が保持されることに配慮する:
【訳者注:以下の科名は国によって表現が多少異なる】
第1グループ: 何れも5年
− plastic
surgery
−
thoracic surgery
−
vascular surgery
−
neuro-psychiatry
−
paediatric surgery
− gastroenterological surgery
− 顎顔面外科
第2グループ: 何れも4年
−
cardiology
−
gastroenterology
− Rheumatologie
− clinical
biology
−
radiology
−
diagnostic radiology
−
radiotherapy
−
tropical medicine
−
pharmacology
− child
psychiatry
−
microbiology-bacteriology
−
occupational medicine
−
biological chemistry
−
immunology
−
dermatology
−
venereology
−
geriatrics
− renal
diseases
−
contagious diseases
− Nuklearmedizin
−
community medicine
− biological haematology
第3グループ: 何れも3年
− general
haematology
−
endocrinology
−
physiotherapy
−
stomatology
−
dermato-venereology
− allergology
Article 6
この命令は、コミュニティー内での労働者のための移動の自由に関する1968年10月15日の理事会規則 (EEC) No 1612/68 により、被雇用者として命令 No 75/362/EEC の
Art. 1 による行動の一つを行ないつつある、または行なおうとする加盟国の国民に適用される。
Article 7
(1982年1月26日改定)
75/362/EEC及び75/363/EECの告示時点で
法律及び行政規則による規定が医師のパートタイム卒後研修を規定していた加盟国は、移行処置として、本規定をArt.2 (1) c)及びArt.3を変更して、医師卒後研修を1983年12月31日までに始める者に適用することができる。
受入国は、(1)が適用される者から免状、証明書またはその他の正式資格証明のほかに、証明書の発行前5年以内に少なくとも3年間中断することなく、専門医として該当する業務に実際かつ法的に専念したことの証明を請求する権限がある。
Article 8
移行処置として、Art. 2 (2) にかかわらず:
(a) ルクセンブルグに関して、ルクセンブルグの1939年の大学学位に関する法律に該当するルクセンブルグの免状だけに関しては、ルクセンブルグ国家試験委員会の交付する
medicine, surgery and obstetrics の doctor 免状を所有するだけで、専門医としての資格証明が交付される;
(b) デンマークに関して、1970年5月14日の内務省行政命令により、法律で必要とされるデンマークの大学医学部により交付されるデンマークのdoctor
of medicine の免状を所有するだけで、専門医としての資格証明が交付される。
(a) 及び
(b) による免状は、Art. 9 (1) による期間の終了前に研修を始めた候補者に交付することができる。
Article 9
(1990年12月4日改定)
(1)
加盟国は、18ヶ月以内にそれらの国で本命令を告示するための手段を講じ、委員会に遅滞なくそのことを知らせる。以前のドイツ民主共和国(東ドイツ)地域に対しては、ドイツ統一が行われたあと18ヶ月以内に、Art.2から5の適用に必要な手段はドイツが行う。
(2)
加盟国は委員会に、この命令が適用される地域に交付される最重要な国内法規のテキストを伝える。
Article 10
本命令を適用するさいに、加盟国が特定の領域において大きな困難に遭遇したときは、委員会はこれらの困難をその国と協同して調査し、Decision No 75/365/EEC によって設定された Committee of Senior Officials on
Public Health の意見を求める。
必要があれば、委員会は理事会に適切な提案を提出する。
Article 11
本命令は加盟国に宛てられる。
1975年6月16日 Luxembourg において作成された。
理事会の名において
President
R.
RYAN
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(1) OJ No C
101, 4.8.1970, p.19.
(2) OJ No C 36,
28.3.1970, p.17.
(3) See page 14 of
this Official Journal.
添付資料
(1982年1月26日添付)
医師卒後研修のフルタイム及びパートタイムの特徴
1.
フルタイムによる医師卒後研修
研修は監督官庁によって認可された卒後研修機関によって実施される。
研修は卒後研修が行われる領域における総合的な医師業務に参加することが条件で、待機業務【訳者注:救急業務を含む勤務時間外の勤務】も含まれるが、研修する医師は臨床的及び理論的な卒後研修を、労働週日(月―金・土)の全期間及び年間を通して、管轄官庁によって定められた方式に基づいて、職業的な従事によって完遂する。従ってこの職には相応の報酬が与えられる。
この卒後研修は、兵役、科学的委任用務、妊娠または病気で中断することができる。卒後研修の総合期間は、このような中断によって短縮されてはならない。
2.パートタイムによる医師卒後研修
このような研修はフルタイムによる卒後研修と同じ条件で実施されるが、それと異なるのは、パートタイムとして医師として従事する期間でも、上記1の2項に示した勤務時間帯の最低半分には達していることという制限がついていることである。
管轄官庁は、パートタイムによる医師卒後研修の総合期間と質がフルタイムより低くならないように配慮する。
パートタイム卒後研修には、それに相応した報酬が与えられる。
翻訳: 岡嶋道夫 (1994年7月、2001年2月追加、訂正)