資料8
メーリングリストに寄せられた福見一郎氏のメール
福見@大阪です、こんにちわ。
岡嶋さんが紹介され(これは資料7です)、小澤さんが興味を示された米国での
peer reviewの実情について少し調べてみました。webではほとんど情報が見つからな
かったので、(いつものように)私の所属する米国のMLに尋ねてみました。
質問1:peer reviewは医療の質の改善や医療過誤削減に本当に役立っていると思うか?
2:peer reviewの記録は法廷には持ち出せないようになっていると聞くが、それは
現在でもそうか?(法令に定めがあるのか?)
これらの質問に対して10名程(弁護士、医師、病院のリスクマネージメント担当者、な
ど)からレスがありました。
質問1については、ほとんどの回答者がpeer reviewの意義を認めており、実際に医療の質
を改善していると答えていました。その代表的なものは「それぞれの医師が同僚の前で自
分の行った治療行為の正当性を説明する機会を時々持つことは、非常に健全な(healthy)
なことである」という声でした。その一方で、「peer reviewは必要であるが、それが真
に意義をもつためには、公正な審査と事後処理、事故防止・安全性確保に取り組む行動
力、などの要件が満たされる必要があり、科学アカデミー医学研究所の医療過誤に関する
報告(米国で毎年44,000-98,000名の入院患者が医療過誤のため死亡していると推定され
る)を思い出しても、peer reviewが十分に役立っているとはいえない」という意見もあ
りました。
質問2については、例外的なケース(医師がpeer reviewに基づいて受けた処分を不服と
して訴訟を起こす場合など)を除くと、peer reviewの記録が法廷に持ち出されることは
無いようで、例えばCalifornia Evidence Codeはpeer review記録のディスカバリー(証
拠収集手続き)を禁止しており、医療過誤訴訟の当事者がpeer review記録を訴訟に利用
することはできないようになっているようです。こうした規制は同僚間での率直な批判を
可能にする上で必須と考える人が大勢のようです。ただ、この規制も州によっては崩れつ
つあるようだという人もいました。現に昨年末に保健福祉省が作成した医療プライバシー
規則では、患者が公開を要求する権利のある医療情報の範囲からpeer review記録をはっ
きり除外すべしというパブリックコメントに対して、連邦議会や州で必ずしもコンセンサ
スが得られていないことを理由に規則本文ではこれには直接ふれなかったということが前
書きの部分(Federal Register 82677ページ)で述べられています。この点を私が持ち出
したところ、この連邦規則の影響は今のところ不明であるが、基本的にはこれまでのやり
方が踏襲されるであろうし、そうあるべきだという答えでした。
日本では最近明らかになった、顎手術患者の手術ミスによる死亡を大学病院が組織ぐるみ
で隠蔽したとみられる疑惑を考えても、peer reviewを定着させるのは容易ではないで
しょうが、医師に免許を与えたあとの十分なフォローを行わない行政の無責任な姿勢の改
善を求めると同時に、医師の自浄作用としてのpeer reviewを活用することも検討の価値
ありと感じました。
Ichiro
Fukumi (rp8i-fkm@asahi-net.or.jp)
http://www.geocities.com/Paris/9531